【産経抄】健さんも応援12月6日
「ほとんどは前科者をやりました。そういう役が多かったのに、こんな勲章をいただいて、一生懸命やっていると、ちゃんと見ててもらえるんだなと素直に思いました」。先月の文化の日、天皇陛下から文化勲章を受け取った高倉健さんは、記者会見でこう語った。
▼かつて任侠(にんきょう)映画の大スターだった健さんが、昨年公開の映画「あなたへ」で演じたのは、刑務所の指導技官だ。受刑者に木工を教えて、社会復帰の手助けをしていた。実際の現場では、ソフトウエア開発から、女性の場合はネイルアートまで、多様な職種の訓練が可能になっているそうだ。
▼背景にあるのは、再犯率の上昇だ。刑務所や少年院を出てからなかなか定職につけず、再び罪を犯してしまう悪循環が、大きな要因となっている。せっかくの訓練の成果を生かす機会を提供しようと、民間企業からも支援の動きが出てきた。
▼関西ではすでに、大手お好み焼きチェーンの「千房」など9社が、元受刑者らを雇用する「職親(しょくしん)プロジェクト」を進めている。受刑者が、刑務所に出向いてきた企業の面接を受け、仮出所後、就労体験を積んで正社員をめざすという試みだ。日本財団が事務局となって、全国規模の活動になりつつある。
▼「あなたへ」のロケが行われたのは、富山市の富山刑務所だった。感謝の気持ちを伝えたいと、健さんは昨年8月、刑務所を訪れ、上映会を行った。「一日も早く、あなたにとって大切な人の所へ帰ってあげてください」。受刑者約350人の前で、健さんが声を詰まらせながら励ましの言葉をかけると、涙をぬぐう受刑者の姿もあったという。
▼再犯防止の決め手になるかもしれない「職親プロジェクト」に、健さんはもちろん、賛同してくれるはずだ。