小松一郎内閣法制局長官が憲法解釈の変更事例を明示したのは、安倍晋三政権が目指す集団的自衛権の行使容認に向け、大きな意味合いを持つ。憲法解釈を変更してはならないという誤った風潮が根強くはびこる中、過去に変更した事例を示したことで、国内外の社会情勢に応じた解釈変更の妥当性を強調し、行使実現に布石を打ったからだ。
小松氏は外務省出身で、政府内でも国際法の専門家として集団的自衛権の行使容認に理解を示してきた。内閣法制次長が長官に昇格してきた従来の慣例を破り、小松氏を起用したのは首相で、腹合わせをした上での発言と見るのが妥当だ。
中国や北朝鮮の脅威が高まる中、「集団的自衛権は有するが、行使はできない」といういびつな従来の憲法解釈は、もはや意味をなさない状況にある。ただ法制局は憲法解釈の変更に常に否定的なスタンスを取り続け、事態を打開するには法制局出身以外の長官を送り込むしか手はなかった。首相は小松氏の起用以降、周到に集団的自衛権の行使容認に向けた環境を整えてきたといえる。
菅義偉官房長官も1日の記者会見で「(行使容認に反発する)中国などの批判は当たらない。理解できるよう説明していきたい」と、取り組みの正当性を強調した。
とはいえ、行使容認に向けた解釈変更には、いまだに高い壁が立ちはだかる。政府は有識者会議「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)で議論を重ねるが、連立政権を組む公明党は、いまだに慎重論が強い。
解釈変更に向けた本格的な取り組みは来春以降とみられ、実現までにはなお険しい道が待ち構えている。(峯匡孝)