脱デフレなくして、消費増税は非ず。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 





【田村秀男の国際政治経済学入門】

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130912/plc13091208300002-n1.htm




デフレなお衰えず。それでも増税するのか?



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デフレの勢いは衰えず(1997年12月~2013年7月)、※CPI(消費者物価指数)は各月の12カ月平均、原データは総務省統計局




 安倍晋三首相は10月1日にも、昨年の「3党合意」に基づく予定通りの消費増税に踏み切らざるを得ないとの見方が政界では多数を占めている。財務官僚の意をくむ麻生太郎副総理兼財務相や甘利明経済再生担当相らが、4~6月期の国内総生産(GDP)2次速報値での成長率アップや7月の消費者物価上昇や失業率の改善に加え、2020年東京五輪の開催に伴う景気押し上げ効果が見込めるとし、増税にますます前のめりになっている。もとより増税に慎重な安倍首相もこうした周囲からの包囲網を跳ね返せないのではないか、との予想が成り立つのだが、筆者はそれでも安倍首相は3党合意通りの増税には応じないとみる。なぜか。

                          (SANKEI EXPRESS

 

 まず、「アベノミクス」の本質を最もよく心得ているのは、安倍首相本人のほか、菅義偉官房長官、経済指南役の本田悦郎静岡県立大学教授と浜田宏一エール大学名誉教授である。一貫して強調している最優先目標は「脱デフレ」であり、その実現に向けた首相の信念はまさに政治生命そのものと言っていい。麻生、甘利の両氏や石破茂自民党幹事長らはこの信念を首相と共有しているとは言いがたく、むしろ「ポスト安倍」の機会をつかむためには、GDPの5割相当に匹敵する予算を支配する財務官僚を味方につける方が有利との、政治家特有の打算が働くはずだ。財務官僚も心得たもので、増税と引き換えに「大型補正」の餌を自民党要人の目の前にぶら下げている。


 安倍首相は、1997年度の橋本龍太郎政権の消費増増税など財務官僚のシナリオに従ってきたからこそ、「15年デフレ」の泥沼にはまり抜けられなくなったという疑念を抱いている。財務官僚OBでありながら、消費税増税によるデフレ圧力を強く懸念する本田氏と、橋本増税の失敗を教訓にするべきと主張する浜田両教授をアドバイザーに選んだ背景である。本田氏は木下康司財務次官と同期で意思疎通が良好だが、首相の意を裏切ることがない。本田氏が出した増税修正案は税率引き上げ幅を1%にして段階的に上げて行く。その案は第1段階で2%の上げ幅もオプションにしている。本田氏はもとより増税延期論者だったが、木下氏ら財務省幹部の工作ぶりからみて、延期は無理と見て、熟慮の末に考え出したのがこの小刻み案である。本田案はデフレ圧力を大幅に緩和すると見込まれ、財務省寄りの経済学者の中にも賛同者がいるほどだ。だが、中小企業者の間に事務負負担が煩雑と反発が強いこともあって、政治的には実現が難しいだろう。

 浜田教授の1年延期案はその点、すっきりしている。アベノミクスの脱デフレ効果はあと1年で軌道に乗り、賃上げの基調が定着すれば、増税に伴う消費意欲の減退を避けられる、というわけである。浜田教授は1年延期しても、2015年には増税は必ず実行すると首相が確約すれば、財務官僚や日経、朝日新聞などのメディアが喧(けん)伝(でん)する「国債暴落」の不安も払拭できると踏んでいる。だが、政治的な難点がある。順当に行けば次の衆院総選挙は16年12月になるが、1年増税をずらすと16年10月に消費税率10%への引き上げとなり、与党にとって不利との見方が多いのだ。


 首相決断の原点は繰り返すが「脱デフレ」に尽きる。日本型デフレとは物価の継続的な下落と、それを上回る賃金の下落のことで、安倍首相はこの点をよく理解している。まず、消費者物価指数(CPI)だが、国際標準であるインフレ指数は生鮮食料品とエネルギーを除く「コアコアCPI」であり、天候や中東情勢からくる変動要因を除いた実物の需給関係を反映する。甘利氏は総合物価指数が上向きになったことで「脱デフレの兆し」を強調するが、コアコアで見れば、CPIはこの7月まで下落基調は衰える気配がまったく見られない(グラフ参照)。民間設備投資も肝心の製造業は依然海外志向で、国内向けは低調だ。新規雇用は依然として賃金の安いサービス業主体で、勤労者所得も前年を下回っている。東京五輪のプラス効果は間違いないだろうが、脱デフレの決め手になるはずはない。首相が「増税」包囲網の中で「脱デフレ」の道を示すためには、少なくとも来年4月の3%税率アップは圧縮せざるを得ないだろう。

                      (産経新聞特別記者・編集委員)