西村眞悟の時事通信 より。
消費税増税に関し、民主党政権下の三党合意では、来年増税することになっている。
また、この頃盛んに、消費増税は「国際公約」だとの外圧を利用したかのような増税不可避説が語られる。
よって、これから、消費税増税への圧力が高まる。
但し、三党合意には、「経済状況等を総合的に勘案したうえで、その施行の停止を含め所要の措置を講ずる」と明記されている。
また、増税が国際公約だとの説であるが、これは、誰が何処で何時、日本は増税するという国際的約束をしたのかさっぱり分からん得体の知れない説だ。言うまでもなく、国家の約束は、国家を代表する者が行い、さらに国会の批准がいる。この国際公約説にはそのどれもない。
先日、60人くらいの専門家や経済人が、来年に消費税を8%に引き上げるべきかどうかの意見を政府に申して安倍総理の決断の参考に資する場が設定され、増税容認の意見具申が多数を占めた。
さらに、本日発表の四半期の実質経済成長率はは3・8%で、その前の四半期は2・6%だった。つまり、安倍内閣になってから経済成長率がマイナスからプラスに転じたことは確かである。
また言うまでもなく、安倍総理が消費税をどうするか決定する際に、四六時中総理の耳に意見を吹き込むのは、先日の一日だけ意見を具申した60人ではなく、官僚組織・財務省である。
そこで、安倍総理が、心耳を開いて意見を聴く相手は、今生きる「経済人や専門家」と財務官僚に限ってはならない。
もっと深遠に、安倍総理は、幕末の山田方谷と西郷南洲、さらに彼らの敬仰する仁徳天皇から意見を聴くべきだと申しておきたい。
西郷南洲曰く、
「租税を薄くして民をゆたかにするは、即ち国力を養成する也。・・・よく古今の事跡を見よ。道の明らかならざる世にして、財の不足を苦しむ時は、必ず曲知小慧の俗吏を用い、巧みに収斂して一時の欠乏に給するを財に長ぜる良臣となし・・・遂に分崩離析に至るにあらずや。」
西郷さんは、国力を養成するには民を豊かにすべきだとして、民を豊かにするには租税を薄くするべきだと説いている。
税を薄くする(減税)とは、「国民の可処分所得を増やす」ことである。
税を厚くする(増税)とは、「官僚組織の可処分所得を増やす」ことである。
そして、西郷さんは、「国民の可処分所得を増やす」ことこそ政治の目的にかなう即ち国を豊かにすることになると言った。
この西郷さんの発想の淵源は、仁徳天皇の仁政の故事であるが、これこそ、現在の我が国の経済構造にドンピシャリでもある。
何故なら、現在の我が国は「内需の国」であり、国民の豊かさが国の豊かさに直結しているからである。
我が国の巨大な国民総生産GDPは輸出によってもたらされているのではなく、大部分を内需が生み出している。
そして、その内需の大部分を国民の消費が生み出している。
従って、国民の可処分所得を増やせば増やすほど消費が増大して、国が豊かになる。
当然のことを付言しておくが、国が豊かになるとは、税収が増えるということだ。これを「税収の弾性値」という。
最近のデーターをもとにした試算では、GDPが1伸びれば、税収は2・5~4・0くらい伸びる(「正論」十月号、136ページ)。
つまり、本日発表のように、我が国の実質成長率が3・8%なら、税収は9・5~15・2%増額する。即ち、ざっと50兆円以上税収が伸びるのだ。
安倍内閣は、増税が政治の目的であると錯覚した前の民主党倒錯内閣ではないのだろう。
政治の目的は、国民を豊かにし国を豊かにすることだろう。
だったら、仁徳天皇以来の脈々たる古来の仁政の伝統の上に発せられた西郷さんの言葉に耳を傾けそれに従う決断をすべきだ。
この西郷さんと同じ時代の超人的財政家が備中松山藩の山田方谷である。彼は、財政が破綻した備中松山藩(今の岡山県高梁市)を見事に劇的に再建した。その手法は、ケインズに先立つこと約百年のケインズ理論の実践である。つまり、公定歩合と公共投資と減税だ。
山田方谷は、備中松山藩の財政再建を引き受けたとき、まず、教育を盛んにし軍備を増強することから着手しようとした。
もちろん、財政の「専門家」は反対する。
この反対論に対して、山田方谷は、おおよそ次の通り反論した。
「反対の理由は分かる。つまり、金がないから何もできないということだ。そして、貴公らは、長年藩の財政を預かって藩財政改善に努力してきた。しかし、それらはことごとく失敗し、藩財政はますます逼迫してきた。そこで、何故、貴公らは失敗したのか、その理由を聞こう。」
そして、山田方谷は言う。
「それ善く天下のことを制する者は、ことの外に立ちてことの内に屈せず。しかるにいまの理財者は悉く財の内に屈する。」
この山田方谷が藩を治めるようになってから、藩財政は劇的に改善され、彼の実施した公共事業によって領内は整備され、旅人は道を歩くだけで備中松山藩領内に入ったことが分かったという。
安倍総理に言う。
「ことの外に立ちて、ことの内に屈してはならない」と。
財政逼迫、財政逼迫、国際公約、三党合意と官僚達は安倍さんのまわりで歌いつづけるだろう。
しかし、彼らの歌に加わることは、「ことの内に屈する」ことだ。
心配することはない。デフレから脱却して消費が活性化すれば、消費税収は劇的に増える。
まず、国民の可処分所得を増やせ。
さて、勤皇の侍であった西郷南洲と山田方谷の教養と施政における思想の根底には、遙か太古の仁徳天皇(四世紀~五世紀前半)の故事がある。と、私は彼らの言動から確信する。
仁徳天皇は、ある日、高津の宮の高殿から、民の竈(かまど)から煙が上がっていないのを眺められた。
そして、民の疲弊を悟り、租税の徴収を三年間取り止められた。
つまり、民の可処分所得を増やされた。
三年後、天皇は再び高殿に登られ民の家々を眺められた。
民の竈から多くの炊煙が立ち上っていた。
つまり、消費が活性化していた。
天皇は、「我は豊かになった」と喜ばれた。
后が天皇に尋ねられた。
「貴男の着ている着物は破けてぼろぼろ、
私たちの住む宮殿は屋根を代えずに過ごしてきて雨が漏れ、
塀は敗れて風が入ります。
それで、どうして豊かになったと喜ばれるのですか。」
天皇は答えられた。
「民が豊かになれば、それが即ち、
私も豊かになったということなのだ」
これが有名な仁徳天皇の民の竈の話である。
しかし、これと同時に、
天皇が、古代最初で最大の土木工事を断行されたことを見逃してはならない。
天皇は、難波の堀江を掘削されて河内平野の水害を防ぎ、さらに茨田の堤を造って灌漑設備を整え、水害のない河内平野を肥沃な大地に変えた。これによって、古代の食糧生産量は劇的に増加した。
即ち、仁徳天皇は、減税と土木工事によって、古代の日本経済を活性化させ規模を増大させたのだ。
これが、仁徳天皇の仁政の故事である。
そして、この伝統の下に、西郷さんの遺訓そして山田方谷先生の実践がある。
なお、仁徳天皇の故事は、脈々と御皇室に伝わり続けて現在に至っていることをゆめ忘れてはならない。
それは、天皇は民と苦楽を共にするという絆である。
昭和天皇は、敗戦直後の疲弊した日本各地に行幸され、
今上陛下は皇后陛下と共に、東日本の被災地に行幸され、
宮中の暖房と燈火を切って生活されて、
被災地の人々と不自由さを共にされた。
以上の通り。
安倍総理に申し上げる。
今は、も少し、国民の可処分所得を増やす時だ。プラス成長の実感は、まだまだ中小企業や商店に及んでいない。
今はまず、山田方谷的手法(ケインズ的手法)で経済を活性化させて消費を増やしデフレからの脱却と税の自然増を目指す。
そして、経済成長が安定軌道に乗ったならば、ニコニコ笑って国民に感謝し、消費税を10パーセントに増額する。
これで良いではないか。
税は官僚が使う国民から徴収する金。
可処分所得は国民が使う自分で稼いだ金。
税が増えれば可処分所得が減る関係にある。
そして今は、官僚の金よりも、まず国民が使う金を確保して経済を成長させるべきである。
古来、為政者は減税の選択肢を持っている。
古来、官僚は増税の選択肢しか持たない。
安倍晋三氏よ、
今こそ為政者の君にしか為せない決断をしていただきたい。
ゆめゆめ、増税の選択肢しかない優秀な官僚のもっともらしい言い分に乗って、
ことの内に屈してはならない。