ニッポンの防衛産業 。原因は「長官指示の廃止」
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20130827/plt1308270751001-n1.htm
それにしても、なぜ日本の護衛艦建造は昨今のような困難な事態に陥ってしまったのか。その1つのキーワードとなるのが「長官指示の廃止」だと言えるだろう。
「長官」とは防衛庁長官のことで、1999年まで海上自衛隊艦艇の建造は、受注を希望する造船所の能力や価格などさまざまな条件を精査した上で決められていた。
しかし、調達改革の一環として廃止されてから競争入札制度がとられるようになったのである。この時の防衛調達制度調査検討会の議事録には、長官指示を廃止することによる艦艇建造基盤弱体化への懸念や、競争による価格低下から品質確保が困難になる可能性などを指摘する声が出ているが、「競争原理を導入することが原則」という流れにはあらがえなかった。
そもそも、艦艇の造船所は、母港から離れてしまうと定期修理や有事の際の対応などの面で支障がある。艦艇分野に競争原理を当てはめることは、こうした防衛上欠かせない要件を満たせなくなるのだ。
「長官指示と言っても、長官が政治的に決めているわけではありません」
手続きを経て上げられたものをトップが決済しているに過ぎないと説明しても、ネーミングから受ける印象も良くなかったようだ。
諸外国ではどうかというと、米国でも競争入札制度を導入しているが、その際にコストだけではなく設計や建造技術についての評価を行っている。そして、コンペで敗れた企業にも仕事が与えられる仕組みとなっている。また、欧州ではプライム企業を1社決め、その下請けとして数社が分割建造する方式だという。要するに、政治のイニシアチブの下でいずれも艦艇建造基盤を守っているのだ。
従来、艦艇建造に関わる企業は、契約前の段階から研究や設計などを先行投資してきたが、それはある程度長官指示による契約によって回収できるからこそだった。ところが、長官指示の廃止により、それらは無償でやらねばならず、また受注できる保証もない。
私たちは毎年、夏になると「なぜ、あんな戦争をしたのか」と振り返り反省している。しかし、その時代の空気やうねりのようなものは当時生きた人でないと分からない面もある。長官指示廃止もそうした1つの大きな流れ、時代の要請だったのかもしれない。
しかし、大事なのは「やり直す勇気」ではないか。それについて国民の理解を得る政治力ではないか。
わが国を守るための軍艦を危機的状況に陥らせているその原因が、敵の攻撃でも何でもなく自国の政策によるものだとすれば、歴史に残る失敗と言わざるを得ない。
■桜林美佐(さくらばやし・みさ)
1970年、東京都生まれ。日本大学芸術学部卒。フリーアナウンサー、ディレクターとしてテレビ番組を制作後、ジャーナリストに。防衛・安全保障問題を取材・執筆。著書に「誰も語らなかった防衛産業」(並木書房)、「日本に自衛隊がいてよかった」(産経新聞出版)など。