「多摩川精機」飽くなき挑戦。HVを経て宇宙分野へ飛躍。
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20130806/plt1308060729003-n1.htm
多摩川精機の工場内=長野県飯田市
長野県・飯田への疎開によって戦火を逃れた多摩川精機は、その後、爆撃機の照準器用ジャイロなどを製造するようになり、2000人の工員を抱える工場となっていた。
戦後は24人の社員だけ残り、空き地でサツマイモを育て、ナベ・カマを作る日々が続いたが、昭和30年代になり自衛隊で装備品の開発が本格化すると、再び防衛部門に着手。内容も戦車、ソナー、航空計器、ミサイル制御…など、陸海空の部品に及ぶようになっていった。
こうして培われた技術は民生品にも生かされることになる。それが「プリウス」などに代表されるハイブリッド(HV)車用の角度センサーだ。HV車はエンジンと電気モーターを速度に応じ切り替えるため、モーター回転角度を正確に検知する必要がある。そのためセンサーが欠かせないのだ。同社製品は国内シェア100%近くを占める。
そして、この勢いは、さらに宇宙分野にまで広がっていった。この度の、宇宙ステーションの無人補給機「こうのとり」を搭載した日本最大のロケットH2B(4号機)にも同社の加工部品が納められている。
この防衛・宇宙分野については、いわば1点モノであるため、HV車用のように機械化されたラインでこなすわけにはいかない。そのため、非常に重要な過程であるモーター部品の巻き線作業は一つ一つ手作業となる。
小さな部屋で黙々と取り組んでいるのは地元の女性たちだ。丸1日仕事をしても数週間~数カ月かかるという気の遠くなる作業だが、「機械よりも精度が高いんです」というので驚かされる。
そういえば先日、国際宇宙ステーションに赴く若田光一さんが記者会見で、アジア初の船長となることについて「日本の技術力が認められた」と語っていた。日本の開発力・人材はもちろん、目には見えない部品を扱う目立たない作業、そして、それを100%確実に行う日本人の真面目さといったものも、この言葉には含まれているのだろう。
「多摩川で興した技術を故郷の天竜川へ」
その思い一つで始まった事業は宇宙にまで繋がった。
しかし、いかなる発展を遂げても、同社はそもそも故郷を貧困から救うために設立されたという創業の理念を決して忘れていない。
自動車市場のニーズにより一部、中国への進出もなされたものの、3代目の萩本範文社長の「国内産業を空洞化させてはならない」という思いは、なお一層強くなっている。
地域、そして日本という故郷のために、同社の飽くなき挑戦はこれからも続きそうだ。
■桜林美佐(さくらばやし・みさ) 1970年、東京都生まれ。日本大学芸術学部卒。フリーアナウンサー、ディレクターとしてテレビ番組を制作後、ジャーナリストに。防衛・安全保障問題を取材・執筆。著書に「誰も語らなかった防衛産業」(並木書房)、「日本に自衛隊がいてよかった」(産経新聞出版)など。