http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20130702/plt1307020711002-n1.htm
遭難した辛坊治郎キャスターを救出したことで、海上自衛隊の救難飛行艇US2が脚光を浴びている。新明和工業が製造していて、以前、当欄でも紹介しているが、改めて同機が持つ大きな可能性や課題についてお伝えしておきたいと思う。
US2は民間転用し、インドなどへ輸出する計画が進んでいるとされ、日本の防衛装備品輸出の先駆けという意味においても注目度は高い。この試みはアベノミクスの方向性と合致しているとも言えるだろう。
しかし、繰り返し述べているが、いずれの装備品にしてもただ海外に売っていいというだけでは、企業としてのメリットは何もない。俗な言い方をすれば、「商売」として成立するのかどうかという観点が必要だ。
まず、日本の防衛装備品を外国が買うために踏まなければならないプロセスは煩雑で、ご多分に漏れず所掌官庁が細かく分かれている。US2の場合も防衛省、経産省、外務省、国交省をはじめとする関係機関が絡み、それら手続きに奔走することで労力を費やしたり、肝心の対象国とのやりとりも全て民間任せだとコストが増大してしまうことも考えられる。何らかの国のバックアップが必要だろう。
そして、US2が秘める能力は他にもある。艇底の燃料タンクを水タンクに換装すれば、消防艇として使えるのだ。そうなれば、約30秒の水上滑走→消火用水をタンクに取水→速やかに離水→数カ所の放水ドアから広範囲に放水が可能となる。
搭載水量は、消防用の一般的なヘリが約2700リットルといわれ、航空自衛隊のCH47JAが約7500リットル、これらに比べてUS2は1万5000リットルだ。
地球温暖化の影響なのか、世界的に森林火災が増加傾向にあるといい、大量の水をくみ上げて素早い消火活動ができる消防飛行艇のニーズは増えている。だが、今のところ海自にそうした運用が必要とされておらず、また、この機能付与により航続距離が半減するなどの要因もあり、その機能が発揮される予定はない。
しかし、ヘリよりも遠くに、より速く到達できるUS2が消火に駆け付けられたら、被害を小さくできたのではないかというケースは多々ある。あの福島第1原発事故の展開も違っていたのでは、などと考えてしまう。今後、災害への備えという観点で消防機関や自治体などが取り入れることも一案ではないだろうか。
ただ、輸出にせよ消防への活用にせよ、持てば誰でもすぐに使えるわけではない。今回の救出劇を見ても分かるように、海自隊員の高い練度、それを裏付ける訓練があってこそだ。その肝心な部分をいかに付与するのかが、これからの課題となるだろう。
■桜林美佐(さくらばやし・みさ)
1970年、東京都生まれ。日本大学芸術学部卒。フリーアナウンサー、ディレクターとしてテレビ番組を制作後、ジャーナリストに。防衛・安全保障問題を取材・執筆。著書に「誰も語らなかった防衛産業」(並木書房)、「日本に自衛隊がいてよかった」(産経新聞出版)など。