「第4の矢」財政健全化はとんでもない「矢」だ!
http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20130604/dms1306040711003-n1.htm
経済財政諮問会議で、アベノミクスの第3の矢である成長戦略に続く「第4の矢」に関する議論が出た。甘利明経済財政・再生相が、財政健全化を「第4の矢」と位置づけたのだ。結論をいえば、とんでもない「矢」だ。
財政健全化の裏にはもちろん財務省がいる。以前の本コラムで紹介したように、財政制度等審議会の報告書の原案については各メディアが報じた。いわゆる財務省によるリークである。
財政健全化には、その達成手法を大別すると、(1)経済成長(2)歳出カット(3)増税の3つがあるが、財務省のいう財政健全化は、はっきりいえば(3)の増税である。
経済財政諮問会議は、財務省の増税の走狗になっているわけだが、そもそも諮問会議の民間議員のロジックが怪しい。民間議員は「デフレからの脱却と中期的な成長を果たすには、金利上昇が民間投資を抑制しないように財政健全化を図るべきだ」と指摘したという。筆者は前回の本コラムで名目金利と実質金利の違いについて説明し、名目金利が上昇しても実質金利が低下しているので問題ないと書いた。ぜひとも経済財政諮問会議の民間議員もよく読んでほしい。
それにしても、財政健全化をわざわざ第4の矢として掲げるのはおかしい。財政健全化は、第1の矢である金融政策から導かれるのだ。この意味で不要な「矢」である。また、財務省のもくろむ「増税」なら、経済成長と矛盾するものとして排除されなければいけない。
財務省が(3)の増税を好むのは決して経済的な理由ではなく、増税が景気に悪影響であることは承知しながら、官僚の権益拡大のほうを優先しているだけだ。
まず財務官僚には予算査定で無謬性(むびゅうせい=間違いはないという前提)があるので、歳出の無駄は認めない。このため、(2)の歳出カットはできないというのが基本的立場だ。となると、(1)経済成長か(3)増税になる。経済的には(1)経済成長が正解なのだが、(3)の増税が選ばれる。
というのは、(1)の経済成長で増収になるのはわかっているが、その、分要求官庁からの歳出圧力が強くなり、それに対抗できない。対抗するためには(2)歳出カットをやらざるを得ないが、それができないと財務省の責任になってしまう。
その点、(3)増税は、政治家に責任を取らせることができるので、官僚としては選びやすい。官僚による政治家の使い捨てもよくある話だ。しかも、予算の裁量枠が広がり、財務官僚の権益は拡大する。
ここで、注意すべきは、あくまで予算上の歳入が増えるだけで、実際の税収が増えるわけでない点だ。増税は経済活動を抑制し、その結果税収は減少することが多い。しかし、増税するときには、予算上の歳入は増える。予算がマクロ経済の動きとは別に、形式計算によって、増税(=税率アップ)がそのまま歳入の税収増になっているからだ。
(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)