田中さん拉致と同時期 失踪同僚も渡航誘う
政府認定の拉致被害者ではないが、北朝鮮に拉致された疑いが排除できない行方不明者を調べている「特定失踪者問題調査会」(荒木和博代表)が「拉致濃厚」とする男性に、新事実が浮上した。男性は失踪前、北朝鮮の工作組織との関係が指摘された人物から、海外旅行の誘いを受けていた疑いが強まった。
男性は、昭和54年に失踪した神戸市の元ラーメン店従業員、金田竜光(たつみつ)さん=失踪当時(26)。店の同僚だった田中実さん=拉致当時(28)がすでに拉致被害者として認定されている。
警察当局の調べでは、田中さんは53年6月、元店主(72)から海外旅行に誘われ、オーストリア・ウィーンを経由して拉致された。
関係者によれば、金田さんは、田中さんが拉致された約半年後、オーストリアから投函(とうかん)された田中さんが差出人の手紙を受け取り、54年になって「ウィーンに行くための打ち合わせで東京に行ってくる」と周囲に言い残して消息を絶った。
当時、2人は仕事が終わった後、週1回程度、近くのすし店で食事をし、その際「どっちが先にウィーンに行くか」を話し合っていたことが新たに判明した。すし店はその後廃業したが、当時の店関係者が2人の会話を証言している。
田中さんの出国前に渡航時期を話していたことから、元店主を介した渡航工作は、金田さんにも同時に仕掛けられていた疑いが強まった。田中さんと金田さんは神戸市内の児童養護施設で育った。
元店主は当時、在日の北朝鮮工作組織の構成員と指摘された。警察当局は元店主らから事情を聴くなど捜査を続けているが、金田さんの足取りの詳細などは依然、つかめていない。
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【用語解説】特定失踪者
特定失踪者問題調査会には、約470人の情報が登録され、このうち270人の氏名などを公開している。拉致の可能性が高い「拉致濃厚」の失踪者は73人に上り、松本京子さん=拉致当時(29)=が被害者として政府認定された。