【ソウル=黒田勝弘】
「円安・歴史挑発…日本また“韓(朝鮮)半島侵略”」。麻生太郎副総理に続いて日本の国会議員多数が靖国神社を参拝した23日、韓国の夕刊紙(文化日報)が1面トップで伝えた見出しだ。
さらに翌24日の各紙は安倍晋三首相が国会答弁で「侵略の定義は国際的にも定まっていない」と発言したとして「安倍総理、日帝の侵略まで否認…ドイツなら辞職もの」(朝鮮日報、1面トップ)などと激しくかみついている。このところ北朝鮮の官営メディアが「核戦争脅迫」で大げさな“言葉の戦争”をやっていたが、今度は韓国メディアが大々的に反応している。
韓国にとっては“極右・安倍政権”(韓国メディアの表現)から予感通り歴史問題で論争を仕掛けられたかたちだ。しかし、韓国はすでに竹島や慰安婦の問題で日本非難・糾弾をやり放題でやってきている。おとなしかった日本が反撃に出始めたことで日韓の“歴史戦争”は本格化しそうだ。
日韓の歴史問題は、日本および自由陣営の安全保障上の観点から韓国の役割が重要だった冷戦時代が終わった1990年代以降、表面化した。韓国を支援し韓国に配慮、遠慮してきた日本に「もう言いたいことを言ってもいいのではないか」という雰囲気が出た。
韓国でも冷戦終結に合わせ民主化時代が始まり、国力増進による自信もあり反日に歯止めが利かなくなった。日韓の“歴史戦争”は旧ソ連陣営と同じく、冷戦構造というタガがはずれたことによる自由陣営内での民族感情噴出といっていい。
“歴史戦争”において韓国はこれまで歴史的被害者意識をタテに終始、日本に対し優位にあった。しかしここにきて“歴史の復権”を叫ぶ安倍政権の誕生で日本は反撃に転じた。現実の韓国はもう弱者でもない。
しかし歴史問題は過去をどう考えるかという話だから外交的にはいつでもしばし棚上げできる。再燃した靖国神社問題も日韓関係の現実とは直接関係はない。
韓国は今回、外相会談拒否で日本に抗議した。対日関係で「歴史的被害者への配慮」を強調している朴槿恵大統領は政治指導者として「原則重視」を看板にしてきただけに、日本に対し毅然(きぜん)とした態度を取らざるを得ない。
迂遠(うえん)ともいえる歴史問題を理由に外相会談を中止したことは会談にそれほど緊急性はなかったことを意味する。日韓でこの種の外交的トラブルはよくある。緊急性が生じれば修復に向かう。朴槿恵外交は当面、5月の訪米が最大懸案で安倍外交も今週末からのロシア訪問が大きい。そうした“外回り”の後、日韓はあらためて見合うことになろう。