http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20130416/plt1304160711000-n1.htm
陸上自衛隊の88式地対艦誘導弾
ここ数日、「ノドン」「テポドン」といった北朝鮮のミサイルの名を聞かない日はない。おそらく日本人は、自分たちの国よりも北朝鮮の軍事事情によほど詳しくなっていることだろう。
一方で、日本のミサイル、すなわち誘導武器の実力については、なかなか知る術がないと思われる。だが、実は世界に秀でたトップレベルの技術も多いのである。その一端を紹介したい。
まず、陸上自衛隊の88式地対艦誘導弾(SSM-1)。これは、対艦ミサイルでありながら海岸線からではなく、山の向こう側から発射することができるものだ。山あり谷ありの複雑な島の地形をかいくぐるように洋上に進出し飛翔するのである。
目標位置を設定すれば、障害物を回避しながら最短距離でターゲットに命中する。また目標に集中してしまわないよう、分散してロックオンするプログラムが搭載されている。
射程が200キロ近くあるといわれ、尖閣諸島が宮古島や石垣島などから約170キロであることから、島嶼(とうしょ)防衛に大きな期待が寄せられる。
もう1つは、弾道ミサイル対処で配備されている航空自衛隊の地対空誘導弾パトリオット(PAC3)よりも、いわば狭い守備範囲での運用が想定された陸自の03式中距離地対空誘導弾(中SAM)だ。
これも同時多目標対処能力を持ち、巡航ミサイルにも対処可能とも言われている傑作だ。「能力はパトリオットを超えるのではないか」という声もあり、弾道ミサイル対処のための改修も可能と思われる。
これらの誘導弾は、三菱重工業や三菱電機をプライムとして多くの企業の技術と英知が集約されている。発射試験は日本国内でできないため米国で行うが、それぞれ精度の高さを目の当たりにした米国人が「当たりすぎる!」と、歓喜雀躍(かんきじゃくやく)するほどだったという。
ちなみに中SAMは、かつて米国が計画した欧州諸国との新ミサイル共同開発計画に、日本は武器輸出3原則の制約上、参加することができなかったため、純国産開発に踏み切り誕生した経緯がある。
常に述べているように、国際共同開発に参加することはベターな選択でしかないのである。あくまで予算さえ付けば国産がベストなのだ(この時の共同開発計画は頓挫したようだ)。
市川團十郎の十八番ではないが、軍事は「腹芸」だと私は思う。こうした装備を国産開発した時点で、プロはそこに気概とポテンシャルを読み取り、それが抑止力となる。
日本は専守防衛などの制約から今のところ機能を抑えているが、極めて高機能で鋭い「槍(やり)」を持っていることは確かだ。そろそろ、この槍の長さを伸ばす時期に来ているのではないだろうか。
■桜林美佐(さくらばやし・みさ)
1970年、東京都生まれ。日本大学芸術学部卒。フリーアナウンサー、ディレクターとしてテレビ番組を制作後、ジャーナリストに。防衛・安全保障問題を取材・執筆。著書に「誰も語らなかった防衛産業」(並木書房)、「日本に自衛隊がいてよかった」(産経新聞出版)など。