日本が独自開発した最新鋭哨戒機の配備始まる。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 





軍拡著しい中国の脅威に、力強い助っ人が登場。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37485

2013.04.02(火)高橋 亨:プロフィール





 平成25(2013)年3月26日、川崎重工業岐阜工場で海上自衛隊(以下、海自と言う)次期固定翼哨戒機(以下、P-1と言う)量産初号機の納入式が、関係企業および防衛省関係者約300人が参列し執り行われ、約12年間にわたった開発を終え、防衛省に引き渡された。

世界最高レベルの固定翼哨戒機



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量産初号機の納入式典(筆者撮影)

 



 構想・確定研究段階も含めると約20年近くの歳月を費やしたことになる。この間、幾多の難関もあったようだが、オールジャパンの官民一体の研究開発体制で乗り切り、世界最高レベルの純国産の固定翼哨戒機を完成させた。

 この陰には長年黙々と「P-3C」のライセンス生産に取り組んできた関連企業とP-3Cの後継機は、自分たちが造るのだという信念を抱いて運用・整備してきた官側の思いが、まさに結実したものと思う。改めて関係者の熱意と努力に深甚なる敬意と感謝の意を表したい。



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航空自衛隊の次期主力輸送機「XC-2」(ウィキペディア より)

 




 P-3C後継機の選定は長い間の侃々諤々の議論の末、自主開発が決定された。開発にあたっては、航空自衛隊(以下、空自と言う)の次期大型輸送機との共同開発方式が採用された。これにより開発経費の節減を図ることとし、両事業の同時立ち上げを可能とした。

 P-1開発は、機体・エンジン・アビオ(搭載電子機器)を同時に開発するという過去にも類を見ない難しい事業に挑み、ついに海自および航空・防衛産業界の長年の夢を実現させた。まさに日本の新しい宝の誕生と言える。現用のP-3Cに比して格段の性能・機能の向上が図られた最新鋭機に大きな期待がかけられている。

 一方、同じP-3Cを運用してきた米海軍は、専用の機体開発は行わず民間機として実績のあるボーイング737を母機としてP-3Cのアビオの発展型などを搭載する方式を選択した。



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米海軍のP8-A(ウィキペディア より)

 





 こちらの開発も順調で、2013年には、「P-8A」として部隊配備される計画である。P-3Cに代わる新たな洋上哨戒の基本的な運用構想は、これまでのP-3Cの役割をP-8Aと無人機(グローバルホーク級)とに分担し共同して運用する構想である。

 無人機は主として初期の広範囲な偵察に活用し、以後の作戦をP-8Aが受け持つというものである。また、機体が高高度を高速巡航するのに適するよう設計された民間機の転用であることから、哨戒機特有の低高度・低速・多旋回飛行には適せず、ある種の運用上の制約があるように思われる。

 従って、低高度飛行を強いられた従来の磁気探知装置に代わるセンサーや高高度から投下可能な魚雷が装備されるようである。

 これに比較しP-1は、哨戒機としての飛行特性を重視し、長年培ってきた対潜水艦戦術を最も効率的・効果的かつ、安全に実施できる設計が採られているとともに、アビオや兵装に至るまで各種作戦を自己完結できる能力の高い世界初の哨戒専用機として、広く注目を集めることと思う。

 今後、P-1は海自の試験評価航空隊の役割も担っている第51航空隊で約3年間運用試験や用法研究などがなされる。また、P-1がジェット機であることから、パイロットおよびクリューのP-3Cからの機種転換訓練も始められる。

これまでに量産機8機の製造が予算化されており、これから数年間で部隊運用に必要な機数が配備されP-1の第一線部隊が編成されることになるであろう。

 現在、ソマリア沖アデン湾で海賊対処に従事しているP-3Cとの交代や今日、緊張状態にある尖閣諸島海域の警戒監視および弾道ミサイル防衛に任ずる日も近いと思われる。また、東日本大震災のような大規模災害発生時にもその航続性と高い捜索能力を発揮してくれるものと思う。

開発終了でも必要な能力向上への取り組み


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国連安保理、北朝鮮制裁決議案を採択へ

今年1月、北朝鮮が人工衛星打ち上げと称して実施した事実上の弾道ミサイル発射実験〔AFPBB News

 






 以上のように、P-1に対する期待は大いに膨らんでくるが、あえて開発が完了したこの時期に、直ちに取り組まなければならないことを述べてみたい。それは、量産型P-1の能力向上とP-1派生機の整備である。

 開発が完了したばかりのP-1をなぜ今すぐ能力向上、すなわち改善に着手しなければならないのか?

 それは以下、3つの理由からである。

 第1は、量産機に適用されている技術は、すでに10年以上昔のものであり日進月歩する航空関連技術およびITの分野から見ればP-1は、もはや一部陳腐化していると言わざるを得ない。元来、軍用航空機の研究開発には10年以上必要であることから、最新鋭機といえども部隊配備時点でその適用技術の遅れは宿命とも言える。

 現に、米海軍ではP-8Aの数次のインクリメントプラン(改善計画)が公表されている。



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ロシア海軍のキロ型級潜水艦(ウィキペディア より)

 





 P-1においても試作機の試験評価段階で摘出された要改善事項は、量産機の製造に可能な範囲でフィードバックされるものの、予算をはじめとした諸般の制約から万全とは言いがたい。また、構想段階での運用上のニーズとの変化分にも対処が必要である。

 第2は、中国の急進的な軍拡である。特に外洋海軍を目指した潜水艦の近代化が顕著である。我が国を巡る戦略環境は、中国の強硬な海洋進出に伴い増強されつつある潜水艦が最大の脅威となっており、引き続き、東シナ海および西太平洋での対潜戦を重視する必要がある。

 従って、対潜戦のキーセンサーであり、P-1の生命線とも言える音響関連システムの性能向上は、喫緊の課題である。

 また、近年、米軍が考えている中国のA2/AD(接近阻止・領域拒否)戦略に対抗するための「エアー・シーバトル」との共同作戦時に必要なネットワークの再構築や空自との統合作戦機能の整合・充実も図らなければならない。

第3は、日米のインターオペラビリティー(相互運用性)の確保である。これまでは両国ともP-3Cを運用してきたことから、完璧な日米共同作戦が可能であったし、P-3Cを運用している多くの国とも相互運用が可能であった。

 しかし、米海軍が西太平洋にP-8Aを展開することから、P-1とP-8Aとのインターオペラビリティ―は何としても確保しなければならない。

不可欠なP-1とP-8Aとのインターオペラビリティ―


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開発中のP-1(右)と配備中のP-3C(ウィキペディア より)

 





 日米は両機の開発段階からMOU(了解覚書)を結び、インターオペラビリティーを確保すべく設計・製造に反映してきたが、いよいよ日米共同における部隊運用の段階に入り、新たなインターオペラビリティーの確保が必要となる事項の出現が考えられる。

 また、現在、世界に15あるP-3C運用国が、将来P-8Aを採用することも考えられる。その際、日本だけが孤立することがないようP-1とP-8Aの連携の強化は必要不可欠である。

 このためには、装備(ハード)面のインターオペラビリティーの確保と、これまで継続して行われている世界的なP-3Cに関する会議(コミュニティー)の発展的な拡張を図り、新たな「固定翼哨戒機コミュニティー」(仮称)の創設を提言したい。

 以上のP-1能力向上と並行していま一つ重要なことは、P-1派生機の整備である。今日、海自は、P-3Cの派生機として電子情報収集機EP-3をはじめ、4機種十数機を保有している。名称は情報収集機というスタティックなものであるが、現実は北朝鮮のテポドンミサイル発射時の警戒監視や尖閣諸島周辺での他兵器システムとの共同作戦を行うなど作戦機と同様な運用がなされ大きな成果を挙げている。

 これらP-3C派生機の老朽化および部品の枯渇化を踏まえ、P-1を母機とした電子・通信・画像情報収集専用機をはじめ、新たに弾道ミサイル観測機や海洋観測機の整備に加え、海外からの邦人救出や要人輸送に供する輸送機への転用など胴体のストレッチや翼形状およびエンジン搭載基数の変更も含め、柔軟な発想による派生機の整備を検討すべきであろう。

 P-1は、これらのニーズに十分応じうる潜在能力を有していると言える。現時点では、70機程度のP-1の整備が考えられているようであるが、各種の派生機を整備し、オールジャパンで生み出した純国産のP-1という貴重な資産を大いに活用すべきであると思う。

 昨年の秋、P-8Aが海自厚木航空基地に飛来し、関係者にデモンストレーションを行っている。同様の展示を世界各国でも予定しているようである。我が国も武器輸出三原則の緩和を踏まえ、高い潜在能力を有するP-1を世界にPRしていくことを考えるべきではないだろうか。

 その国の技術開発力は、まさにその国の防衛力にほかならない。また、国内に防衛生産技術基盤なしには継戦能力も維持できないという厳然たる事実も再認識しなければならない。この度のP-1玉成により得た誇りと実力を強く堅持し、日本の航空宇宙・防衛産業界が再び活性化することを強く望むものである。