金融量的緩和の脱デフレ効果。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 








【日曜経済講座】編集委員・田村秀男




草莽崛起:皇国ノ興廃此ノ一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ。 




円安・株高だけでは限界あり


 大胆な金融緩和を掲げる黒田東彦日銀総裁体制がスタートし、円安・株高基調が続く。このままマーケット主導の脱デフレ、景気拡大は可能だろうか。


絵空事でない2年


 円安基調が今後2年続くと仮定しよう。これまでの「15年デフレ」の間に2度、2年程度の円安が持続したから、「2年」という期間は決して絵空事ではない。黒田総裁、岩田規久男副総裁も、2%のインフレ目標を2年程度で達成すると約束した。

 円安は輸入原材料価格を押し上げるので、インフレ要因に違いない。最近でも、鉄鋼、石油化学、繊維など産業素材、さらにトイレットペーパーや小麦粉などでも値上げの動きが広がっている。ところが、メーカー段階の値上げが消費者物価指数(CPI)上昇に結びつくとは限らない。

 2004年11月から07年夏までの円安局面では企業の製品値上げが広がったが、インフレ指数であるエネルギーと食料品を除くコアコアCPIは下がり続けた。需要不足のために、小売段階まで値上げが浸透しなかったからだ。

株高は個人投資家の気分を高揚させ、個人消費を刺激する。米国を例にとると確かにそうだ。株式保有者の数が野球ファンよりも多く、家計は金融資産の大半を株など証券で運用し、株価が上がれば、個人消費も上向く。米企業の大半は金融機関からの借り入れではなく、証券市場から資金調達する。株式市場が活気づけば、企業は増資や新規株式公開(IPO)により低コストの資本を調達し、設備投資など固定資産投資に振り向ける。株価の上昇、下落と固定資産投資は見事なまでに連動する。米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長が大量のお札を発行し続ける量的緩和政策にこだわるのは、株価上昇による景気浮揚効果を重視しているからだ。


米国とは違う日本


 最近の株高を受け、日本のデパートでは高額商品が売れ出したと聞く。だが、日経平均株価は07年に1万8千円台まで上昇しても、個人消費は低迷を続けたし、民間設備投資の回復は短命にとどまった。日本の個人消費と民間設備投資動向は、株価との相関性が極めて薄いのだ。

 米国型の量的緩和政策に踏み出す黒田日銀について、米国のノーベル経済学賞学者のJ・スティグリッツ教授、P・クルーグマン教授などから称賛されている。しかし、現預金での運用が中心の家計や、銀行借り入れ依存の企業が多い日本に、米国の金融主導の経済モデルが当てはまるとは限らないし、そうだとしても米国ほどの効き目は出にくいようだ。

日本の場合は15年デフレで家計が細り続け、サラリーマン、サラリーウーマンは昼食時、1円でも10円でも安いコンビニ弁当に足を向ける毎日だ。バブル崩壊後の二十数年間もの株価の低迷で、4500万人の個人株主の大半は株価が多少上がっても、損した分の一部を取り返したにすぎない。大企業は手元に巨額の余剰資金を抱えているので、株価が多少上がっても、米企業のようにただちに株式市場で調達する必要性に乏しい。


消費増税に待った


 こうみると、日本が2年程度で脱デフレを果たすためには、アベノミクス第2、第3の矢である財政政策と成長戦略にも期待せざるを得ない。成長戦略のコアは規制緩和だが、効果は長期的で、短期的にはむしろ混乱要因になりうる。財政面では、財政出動で有効需要(カネの裏付けのある需要)を作り出す政策が重要になる。しかし、財源上の制約から公共投資の増額規模はおのずと限られてくる。

 となると、財政面ではデフレ促進効果が大きい消費増税の実施を延期し、量的緩和効果を妨げないようにするほうが得策ではないか。デフレ圧力の下での消費増税は消費者と企業の両サイドを直撃するばかりではない。一時的な駆け込み消費を引き起こした後、需要が急速に萎縮する。安倍晋三首相による最終的な決断が待たれるところだ。