強大な「中国海警局」が牙をむく。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 









東海大学教授・山田吉彦




 中国は全国人民代表大会で、国家海洋局の中に海洋での警察権を行使する部門を統合した「中国海警局」を創設し、習近平・新国家主席の指導の下、「海洋強国化」を推進する態勢を固めた。海警局は、人民解放軍とは別個の、行政組織直属の艦隊ともいうべきもので、初代局長には武装警察を束ねる公安省の次官が就任した。

《アジア最大の海上警備機関に》

 東シナ海での中国公船の動きはここ数カ月、活発化していた。尖閣諸島周辺の日本領海内への侵入頻度、滞留時間ともに増え、2月には日本漁船が中国公船に追尾される事態まで起き、最新鋭の大型警備船の投入など装備面も強化された。海警局創設への布石を打ち、東シナ海を「核心的利益」と位置付けて計画的、組織的に動いている表れだったとみていい。

 中国の海洋進出は、「世論戦」「心理戦」「法律戦」-の三戦理論に基づき進められてきた。

 世論戦では内に向けて、海洋強国化を宣言し、資源エネルギーや水産資源の確保などを喧伝(けんでん)し、海の重要性を国民に周知している。外に対しては、国連などの舞台を利用して、南シナ海、東シナ海における島々の領有の正当性を勝手な理屈で国際世論に訴えている。日本をはじめベトナム、フィリピンなどに対し領有権争いを挑み、恫喝(どうかつ)外交や貿易規制、国民動員の抗議活動などにより心理的圧迫を加える戦術を展開している。

法律戦では、領海法、海島保護法などの海洋権益の根拠となる国内法の整備を進め、そうした独善的な法体系を守るために武装警備機関の創設を目指してきた。それが海警局というわけである。

 従来、中国の海洋警備機能は、「五龍」と呼ばれる5つの組織に分散されてきた。海洋調査・管理を担当する「海監」(国家海洋局所属)、海の治安部隊である「海警」(公安省)、漁民と漁場を管轄・管理する「漁政」(農業省)、航行安全を守る「海巡」(交通運輸省)、そして密輸取り締まり船(税関総署)である。

 このうち海巡を除く4つの海洋警備部門を一本化した。統括する船艇は3000隻超と、日本の海上保安庁をはるかに凌ぐアジア最大の海上警備機関となった。

《日本漁船拿捕の事態を防げ》

 海保が恐れるのは海警局による法執行である。尖閣諸島海域に出没する公船が警察権を持つことは今後、日本の漁船が拿捕(だほ)され漁民が逮捕される事態を予測させる。仮に漁船が捕まって中国に連行されでもしたら、日本政府はどのような手を打てるのだろうか。

 北方領土海域では、ロシア(旧ソ連)に拿捕された日本の漁船、漁民は泣き寝入りするほかなかった。韓国が一方的に不法に定めた専管水域、李承晩ラインを越えた多くの漁民も犠牲になった。

それ以上に問題となりそうなのは、海警局部隊が中国漁民を伴ったりして尖閣上陸を強行した場合である。軍による侵攻とは違って警察権の行使となり、自衛隊の投入は困難となる。当然、日米安全保障条約第5条の適用外だ。

 中国は、海警局を前面に押し出して海軍を温存することで、中国よりも優位に立つ日米の海軍力を制約できる。海警局の登場は、東シナ海における米国の影響力に歯止めをかけることにもなる。

 海保は海警局に対応して尖閣の警備態勢を強化し、巡視船12隻で周辺海域を守る計画だ。だが、漁民が先兵として送り込まれて上陸した場合、海保のみでは対応する術はない。海警局が整えた勢力はそれを上回るからだ。日本が「棚上げ論」などに惑わされて自己規制し、尖閣の守りを疎(おろそ)かにしてきた間に、中国は東シナ海でのプレゼンスを着々と築いてきた。現状はそれらの帰結だといえる。

《海洋安保戦略を練り上げよ》

 日本としては、中国の動きを止めることが先決である。そのためには、生物多様性条約に基づき、尖閣海域を海洋保護区に設定する旨を宣言し、海洋環境の保全、水産資源の保護という名目で国際的監視下に置くことが有効である。並行して国内の海洋管理体制の構築を急がなければならない。

そのうえで、省庁間の縦割りを排して、総合的、長期的な観点から海洋戦略を練り短期的な戦術を探る「海洋安全保障大綱」を作成すべきだ。周辺諸国の動向をにらみ海上警備態勢を検討する。大綱には外交戦略、防衛戦略、警備態勢、国境、離島の管理を網羅する必要がある。これまでの場当たり的なやり方では、中国の用意周到な海洋戦略に対抗できない。

 海上自衛隊が海保支援に動ける法整備も必要だ。現行の海上保安庁法では、他国の公船は領海内でも取り締まりの対象外である。法改正をして、公船も日本国民に危害を及ぼせば犯罪行為として取り締まれるようにし、日本漁船の拿捕を防がなければならない。

 海洋国日本を守るには、海洋安全保障態勢の構築が不可欠だ。中国海警局は東シナ海攻略の前に南シナ海の周辺諸国を標的にしてくることも考えられる。日本の海洋安全保障戦略は、アジア海域全体の平和にも重要なのである。

                              (やまだ よしひこ)