円安と株高はなぜ同時進行するのか。
http://www.zakzak.co.jp/economy/ecn-news/news/20130315/ecn1303150711002-n1.htm
2011年3月11日の東日本大震災から2年たった。株式市場は08年9月の「リーマン・ショック」以来の不振に追い打ちをかけられたが、アベノミクス効果で円安・株高にはずみがついた。円・株連動のメカニズムとは何か。
投資家は通常、現時点の相場水準ではなく、円相場の動向が高くなる、あるいは安くなるという予想をまず立てて、円高が進みそうだと日本株を売り、安くなりそうだと買う。予想が定着するまでにはある程度時間がかかるはずである。
ところがグラフを詳しく見ると、株と円の変動に時間差がほとんどみられない。ことに昨年秋の衆院解散総選挙決定以降はぴったり連動している。
日本株の売買高の5割以上を占めているのは「外国人投資家」である。外国人の本拠はニューヨーク・ウォール街で、かれらはグローバルな証券投資を展開している。そのポートフォリオはドル建てで計算され、米国株に対する日本株の比率はしばらくの間、固定される。円相場が上がると、ドル建ての日本株時価は増えるので、ポートフォリオでの日本株の比率が上がる。すると、コンピューターによる自動売買プログラムが作動し、日本株を売って、日本株の比率の上昇を防ぐ。円安の場合、逆に日本株の比率が下がるので、日本株を買い増す。
グラフに目をこらすと、ときには「3・11」後など、円と株の変動がずれるケースが目立つ。主因は金融政策である。
日銀の政策変化が株価を撹乱(かくらん)した局面は2回ある。1回目は3・11直後で、日銀は資金を金融市場に大量投入したが、その後資金を引き揚げ、円高傾向に引き戻した。株価は急激な円高から1、2カ月遅れて急落していった。
2度目は、昨年2月14日のバレンタイン・デーでの「1%の物価上昇のメド」の発表である。市場は、日銀が金融の量的緩和に乗り出したと期待し、円売りに転じたが、1カ月後には日銀に量的緩和の意図が乏しいことが判明し、円相場は再び急騰するようになった。株価は2週間遅れで反応し、急落した。
そして、昨年11月16日の衆院解散後は、安倍晋三首相の強力なリーダーシップのもとに、日銀が「インフレ目標2%」を受け入れたほか、量的緩和に背を向けていた白川方明(まさあき)日銀総裁と副総裁2人が退任。後任にはインフレ目標の2年達成のために大胆な金融の量的緩和に踏み切ると約束する黒田東彦(はるひこ)総裁候補と岩田規久男副総裁候補が指名され、円安の期待が市場に定着していった。あとは、ウォール街の自動売買プログラム通り、円安の度合に応じて日本株を買うパターンが定着したのだ。
円高に逆戻りさせるような政策を日銀がとる可能性がなくなったことが、円安=株高の法則をフルに働かせている。あとは日銀の新首脳部がコンスタントに量的緩和を遂行し、実質金利を下げていくメッセージを市場に流すことが法則定着の鍵になる。
(産経新聞特別記者・田村秀男)