【東日本大震災から2年】ジャーナリスト桜林美佐氏
http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20130314/dms1303140711001-n1.htm
「トモダチ作戦」で災害復旧に尽力した米軍兵士ら=宮城県東松島市
「○○さんは今日は来られないようです…」
自衛官夫人の会合にお邪魔する機会が何度かあったが、このところ急な予定変更が少なくないようだ。
「実は私も最近、始めたんですよね…」
そういう人も多い。何かというと、自衛官の妻たちは今、次々にパートに出ているというのだ。
中には以前から働いていた人もいるが、国家公務員の給与平均7・8%カットにより、そうせざるを得ない人が多い。受験生を抱えていたり、病気の家族がいるなど家庭には人には分からない事情がある。
「うちにだってあるわ」と思われるかもしれないが、自衛隊の任務の特殊性を知れば、一般人と同じようには考えられないことをご理解頂けるだろう。
2年前の東日本大震災の時もそうであったように、自衛官は仮に家族が被災しても任務優先だ。不安の中、最もそばにいてほしい人がいない…。それでも妻たちが気丈に家を守っていたからこそ、この組織は成り立っていると言っていい。
本来、給与削減を問題視するよりも、自衛官の名誉や誇りを尊重する世論形成の方が大事なのかもしれない。しかし、「減収」は、とかく家庭内のいざこざを招き、もしもの時に母親も帰宅できないかもしれないなどと気になれば任務遂行に支障をきたす。これが、災害に耐える国を目指す施策といえるだろうか。
だからといって、誰一人文句を言っているわけではない。むしろ厳しい財政を考えれば仕方がないと言う。しかし、国民がそれを平気で眺めているような気がしてならない。もっとこうした一面も知ってほしいと思う。
また、「トモダチ作戦」で多大な力を貸してくれた米軍についても、日本人は実際あまり知らない。
在日米軍の妻たちは異国の地で大地震というショッキングな経験をしたが、発災直後から指揮官夫人が部下たちの家族を訪ね心のケアに努めた。そして、多くがボランティア活動をスタートさせたという。ありったけの洋服や手作りのお菓子を子供に配ったのだ。中古の自転車を集め、夫が休みの日にトラックを借りて被災地に持っていった夫婦もいたという。
日本人代表として、ある高官夫人が電話でお礼をしたところ、向こう側では声を詰まらせた。
「私たちを、認めてくれてありがとう…」
互いに涙で言葉にならなかった。
“銃後”の妻たちの、いずれも日本の震災報道に現れてこない一面だといえそうだ。
■桜林美佐(さくらばやし・みさ) 1970年、東京都生まれ。日本大学芸術学部卒。フリーアナウンサー、ディレクターとしてテレビ番組を制作後、ジャーナリストに。防衛・安全保障問題を取材・執筆。著書に「誰も語らなかった防衛産業」(並木書房)、「日本に自衛隊がいてよかった」(産経新聞出版)など。