http://www.zakzak.co.jp/economy/ecn-news/news/20130208/ecn1302080709005-n1.htm
株価の回復がめざましい。個人投資家でなくても、「いくらまで上がるだろうか」と気になるところだが、回復余地はまだまだ大きいように見える。
いきなりだが、グラフを見てほしい。国際的な株価指数であるMSCI指数を使って、リーマン・ショック直前の2008年8月の株価を100とした日米の平均株価の推移を追っている。日本の株価は通常、円で表示されるが、MSCIはドル建てと併用している。グローバル化しているマーケットで、一国の株価を見る場合、ドルに換算して判断する必要があるからだ。
グラフでは一目瞭然、円建てでみた日本の株価はことし1月時点でリーマン前の7割強の水準であるのに対し、ドル建てだと9割近くまで回復している。円ベースとドル・ベースの株価の大きなギャップの主因はリーマン後の円高・ドル安である。
ドル建ての日本株指数はリーマン後、米株価とほぼ連動して回復してきたが、11年3月の東日本大震災を機に急落し、米株価の回復軌道から大きくそれ、低迷するようになった。
円ベースでみると、リーマン後にいったんは回復しかけたが、ドル・ベースについていけない。昨年12月の総選挙後には大幅に改善しつつあるが、水準は依然としてドル・ベースのはるか下にある。
日本の株価形成の決定力を持つのは売買シェアの5割以上を占める「外国人」で、その本拠はニューヨーク・ウォール街である。その投資ファンドや機関投資家はグローバルなポートフォリオ(資産構成表)を組み、日本株の保有シェアを固定している。ポートフォリオはドル建てで、円高になれば日本株のシェアは上がり、円安になると逆に下がる。コンピューターの自動売買プログラムが作動して、円高の際には日本株が売られ、円安になれば買い増される。
現局面の日本株は円高是正と米国株上昇の2つの要因で上がりつづけている。しかも、円、ドル・ベースともリーマン前の水準にはまだ遠い。円ベースではあと3割以上回復しないと、リーマン前に復帰できない。ドル・ベースで考えるウォール街の投資家にとってみれば、日本株は米国株に比べてやはり3割くらいの差がある。外国人の対日株式投資が増えているのは、日本株の上昇余地に着目したからだろう。
こうみると、今後の株価回復の条件は明らかだ。円高是正基調の維持と米国景気拡大期待の持続である。これから「1ドル=95円」が視野に入るようだと、日本経団連首脳が「輸入コスト上昇」を騒ぐだろう。そこで自民党の幹部や安倍内閣の有力閣僚が「円相場はそろそろこのくらいで」と発言するようだと危うい。円高是正の打ち止め感が市場に広がり、株価は浮揚力を一挙に失うだろう。
株式市場はアベノミクスへの期待先行の段階であって、実体経済を反映しているわけではない。安倍首相周辺は発言に気をつけることだ。
(産経新聞特別記者・田村秀男)