情報収集衛星
北朝鮮による弾道ミサイル「テポドン1号」発射(平成10年)を契機に導入された政府の情報収集衛星は、1月27日にレーダー4号機が打ち上げられ、当初計画から10年遅れで本格運用が実現する見通しとなった。
衛星が正常に機能すれば、光学衛星とレーダー衛星各2基が同時に稼働する「4基体制」が初めて整い、地球上のどの地点でも1日1回以上監視できる。
北朝鮮が昨年12月の長距離弾道ミサイル発射に続き3度目の核実験を予告するなど、軍事的脅威は一層高まっている。日本が事実上の偵察衛星による独自の監視網を確立する意義は極めて大きい。
安倍晋三首相は「わが国の安全保障と危機管理に万全を期すため、4基体制を最大限活用し情報収集を確実に行っていく」との談話を出した。当然である。
宇宙利用を「非軍事」に限定してきた昭和44年の国会決議が長く足かせとなり、日本は偵察衛星の開発・運用の歴史が浅い。「安全保障に万全を期す」ためには、ハードとソフトの両面での技術向上が不可欠である。
地上の物体を識別する能力は、日本の光学衛星が約60センチ、レーダー衛星が1メートルとされる。米国の偵察衛星だと10センチ、商業衛星でも40センチまで識別可能だという。
政府は最新の商業衛星を目標に性能向上に取り組むとしている。世界でもトップレベルの日本の光学技術を生かし、世界水準の偵察衛星を早期に実現してほしい。
ソフト面では、膨大なデータから重要情報を読み取る分析能力の向上と人材育成も大きな課題だ。1日1回の監視で十分かなど、運用体制の検討も必要だろう。
衛星による監視網の維持・強化は、国民の理解が前提になければならない。衛星の利用実態は安全保障の観点から、原則として公表されない。衛星画像の公開のような直接的な情報開示はできないとしても、「日本の安全」に貢献していることを国民に実感してもらう努力を怠ってはなるまい。
少なくとも、宇宙政策委員会の議論は、安全保障にかかわる議題を除き、原則公開とすべきだ。
情報収集衛星には今年度までに9200億円が投じられた。情報公開に制約があるからこそ、費用対効果の検証を厳格にし、無駄や不正を徹底的に排除する姿勢を示さなければならないはずだ。