夢の「純国産ヘリ」 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 





最初の壁は「日本人」


草莽崛起:皇国興廃此一戦在各員一層奮励努力。 







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陸上自衛隊の観測ヘリコプターOH1




 1990年代に走り始めたOH1(陸上自衛隊の観測ヘリコプター)の研究開発。「純国産のヘリを!」。その合言葉は単に夢を実現したいという願望を満たすものではない。輸入やライセンス国産では、修理を勝手に国内でできないことが多く、その都度、製造国に送ることになるが、短くとも数カ月、下手をすると2、3年帰ってこないこともあるのだ。

 散々待たされて、さあ使おうとしたら動かないなんてケースもざらだ。そもそも、外国人の体形や気質に合わせて作られたものは、日本人にとって違和感があるものも少なくない。ちょっとした改善を加えたくても、それが許されないもどかしさもあった。

 「死ぬなら日本人の作った飛行機がいいな…」

 パイロットのそんなつぶやきが、整備にあたる者や開発に携わる関係者の耳に入っていた。背中の傾き、足の位置…操縦を行いながら偵察をし、攻撃を回避するということも考慮すれば、ほんの小さな「気になること」が致命的になりかねない。それに、修理や部品の供給を外国に頼り続ければ、いつまでもその国の支配下に置かれることになる。

 それは独立国のあるべき姿ではないことは分かり切っていた。

 その思いを陸自のヘリほどではなくとも、米国との繋がりの濃い戦闘機パイロットでも持っており、だからこそ日の丸戦闘機の夢を追ったのだ。しかし、それは思い通りにはならなかった。

 同じころに、その一部始終をわがことのようにうかがっていたヘリ関係者たちは、米国を刺激しないよう最大限の注意を払って準備を進め、オールジャパンのプロジェクトに漕ぎ着けたことになる。

 ところが、彼らが最初にぶつかった壁は意外にも同じ日本人だった。

 「国産でやる必要はあるのか」「米国の共同開発案に乗るべきでは?」

 政治家や一般国民の声だけではない、自衛隊内でも意見が分かれた。当然、今・現在のことだけを考えれば海外製品を買う方が性能やコスト面でも政治・外交的にも都合がいい。しかし、自衛隊のように20年もの使用を想定した場合、いつか必ず部品枯渇や改善のニーズが出てくる。その長い視点で見れば、最初は大きな経費がかかってもトータルでは決して高すぎる投資ではなく、また向上させる余地もあることから将来性も見込めるというのが国産開発派の見方だ。

 この押し問答は、国防における古くて新しい問題といえるだろう。また、共同開発についてはF2(航空自衛隊の支援戦闘機)の経緯から避けたいことだった。

 ともかくも、まずは身内の説得から始まったのである。そして、ゴーサインが出てからの過程は驚くほどにスピーディーだった。

 ■桜林美佐(さくらばやし・みさ) 1970年、東京都生まれ。日本大学芸術学部卒。フリーアナウンサー、ディレクターとしてテレビ番組を制作後、ジャーナリストに。防衛・安全保障問題を取材・執筆。著書に「誰も語らなかった防衛産業」(並木書房)、「日本に自衛隊がいてよかった」(産経新聞出版)など。