「愛情」があるから人間は戦争をする。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/36733
2012.12.13(木)桜林 美佐:プロフィール
『戦争は人間的な営みである 』という本が並木書房から11月に発売された。著者は石川明人さん、北海道大学文学部を卒業し同大大学院博士課程を経て、現在は北大で宗教学・戦争論の助教授を務められている。
生まれは昭和49年というのでまだ30代だが、筆致は精錬されていて、日頃、世の中を飛び交う稚拙な日本語に嫌気がさしている皆様にはぜひ手に取っていただきたい1冊である。あまり日本語にこだわりを持たない方には、この点をご理解いただけないかもしれないが・・・(ちなみに私は多くの人が「感動した」と評価するベストセラー本を買っても、内容以前にその文体に共鳴できないことが多い)。
愛情や真心があるから人間は命をかけて戦う
この本の魅力は、使用語彙に対するこまやかな配慮だけではない。もちろん中身の充実がある。序章における<戦争は『善意』によって支えられている>という言葉に、まずは深く頷いた。
誰もがなんとなく気付きながらも、考えることそのものを忌避する傾向があるが、人を戦争に駆り立てるのは、非常に強い「正義感」や「愛」である場合が多い。同書では次のように述べている。
<何らかの意味での『愛情』あるいは『真心』があるからこそ人間は命をかけて戦うことができてしまう、戦争を正当化できてしまうのだ。そこに悲劇の本質があるのだと考えるべきである。>
そして、<私たちは、人間の持つ、そうした皮肉・逆説を、正面から見据えなければならない>と。
こうした言葉を紹介すると、必ず「人殺しを肯定するのか」などといった声が上がりがちであるが、その風潮こそが日本人が真摯に戦争と向き合えない土壌を作り、思考停止を招いている。そのことに、むしろ危機感を持つべきだろう。
<私たちは、交通事故あるいは家事などに対して『家事反対』『交通事故反対』などとデモ行進をしたりはしない。交通事故を減らしたければ『反対』と叫ぶ以前に、自動車、道路、標識、信号機などについて、あるいは運転する人間の行動などについて、研究するしかない。自動車や交通規制について無知であれば、交通安全についても無知であろう。>と著者が言うように、反対や抵抗は、叫ぶ本人のセンチメンタリズムを満足させるだけなのだ。
昭和15年は暗い時代ではなかった
私自身の極論を申し上げると、人類は平和を希求し、そこに究極の幸せを見出せるかといえば、そうは決して思わない。平和であっても必ずしも幸福ではないからだ。
いつか、テレビの歌謡番組を観ていたら、昭和15年に作られた曲を紹介する際に「この頃から日本は暗い時代に入っていきました」などとコメントしていて驚き呆れたことがある。
一体、誰が昭和15年をして「暗い時代」に突入したなどと決めたのだろうか。そもそもこの年は「紀元2600年」であり、日本中が奉祝ムードに沸いていたはずだ。
「今」の価値観で測って「暗い」「明るい」などと評価するなど、おこがましいことこの上ない。当時の人々の懸命な日々の営みを否定する権限は私たちにはないのだ。
毎年3万人もの人が自殺し、それ以外にも不審死が数万人に上るという現代は「平和」だと言われるが、果たして「幸せ」な時代なのだろうか。こうなると、もはやどちらがどれほど「暗い」か「明るい」か、などと評することに何の意味もないだろう。
それよりも「今」という時代は、やがてどのように振り返られるのかに注意を払う方が賢明ではないだろうか。そのために、やらねばならないことが様々にある。
災害派遣に従事したいから自衛隊に?
只今、選挙戦の論点の1つとなっている「国防軍」について、早速、反対する候補者からは「戦争をする国になる」などという反応が出ているが、そのあたりは、これまでのわが国の歩みからすれば織り込み済みであろう。
この問題の要点は、自衛隊が外国から見れば軍でありながら、自衛官の地位・権限が国内的にはそのルーツである警察予備隊のままであるという「軍隊のようで軍隊でない」曖昧な位置付けから脱することができなかった戦後日本を、いわば清算する意味があるように感じる。
軍でないことの弊害は様々にあり、それはまた別の機会にじっくり述べたいと思うが、私が最近、最も案じているのは自衛官を目指す若者の質の問題だ。
聞けば、東日本大震災以降、入隊希望者が増え、多くの者が「災害派遣に従事したい」と口にするのだという。そして、その活動の様子をビデオなどで見た親が「あんなキツいことをさせるわけにはいきません!」と猛烈に反対するのだそうだ。
親も親なら子も子・・・。しかし、彼らを責めるわけにはいかない。「国防」や「戦争」について、きちんと教育をしてこなかった日本、そしてそのことを正確に説明することが許されない環境の下で、災害派遣活動など分かりやすいことでしかPRできなかった防衛省・自衛隊であったとすれば、このようなトンデモ親子が生まれるのは、ある意味必然なのだ。
自衛官は国家公務員である。もしかしたら、「軍人」よりも今のままの方がいいと思っている現役自衛官もいるかもしれない。
「国防軍」のネーミングがいいかどうかは別として、日本は今すでに領土・情報・世論・・・など多岐にわたり周辺国による干渉を受けている点で戦争状態に入っていると言える。その中で、軍なのかどうか分からない存在や、軍人になりたくない人がいる軍事的組織を国の税金で保持する余裕はない。
選挙の前にまずは石川氏の本を読んで、多くの国民に、また候補者に、「戦争とは何か」を考えてもらいたい。