1957(昭和32)年10月4日、ソ連が人工衛星の打ち上げに成功した。日本を含め世界中の人々が「人類初の快挙」に酔い、競って衛星の電波をとらえようとした。だがその一方で真っ青になっていたのが、冷戦状態にあった米国政府の首脳たちだった。
▼単に衛星の競争に負けたショックではない。打ち上げに使った弾道ミサイルに衛星ではなく核を積めば、米国はたちまち脅威にさらされるからだ。国を挙げて「追いつき追い越せ」にかかる。その最中の1960年「米国の威信回復」をかかげて当選したのがケネディ大統領である。
▼日本ではなぜか「ハト派」的イメージを持たれていた大統領だが、そんな「ヤワ」ではなかった。1962年、キューバにソ連がミサイル基地建設を進めていることがわかると、海上封鎖で対抗する。これがソ連にミサイル持ち込みを断念させたのだ。
▼そう考えると、あの人工衛星が「強い米国」や「強い大統領」を生んだともいえる。だがそれから半世紀以上後の日本はどうなのだろう。北朝鮮がまた人工衛星名義のミサイル発射を予告した。4月の発射失敗から何とか立ち直ろうとしているらしい。
▼野田佳彦首相は当然のことながら「断固とした対応」を指示した。しかし4月のさいに露呈した情報収集の甘さが改善されたのかわからない。イージス艦の黄海への派遣も中国、韓国に遠慮してか見送るらしい。少しでも「強い国」へと前進したかは疑問だ。
▼しかも日本の安全を左右する重大事態なのに、公示された総選挙ではほとんど争点となっていない。尖閣をどう守るかもそうだ。「外交・防衛は票にならない」と言うのなら、北朝鮮や中国があざ笑うだけである。