【古事記のうんちく】(8)
青谷上寺地遺跡で出土したサメを描いた石製品(鳥取県埋蔵文化財センター提供)
古事記の中で最もポピュラーな神話が「稲羽(いなば)の白ウサギ」。大黒様としても親しまれるオオクニヌシノミコトが、鳥取の海岸で白ウサギを救うという伝説だ。
白ウサギはワニ(=サメ)をだまして隠岐島から海岸にたどりついたが、嘘がばれて皮を剥ぎ取られた。オオクニヌシの兄から「潮水を浴びて風にあたれば治る」と言われ、その通りにするとひどくなった。そこでオオクニヌシが「真水で体を洗って蒲(がま)の花粉をまいた上で寝ていなさい」と教え、傷は癒えたという。
サメをなぜワニというのか理由は定かではないが、今でも山陰地方ではこう呼び、食卓にものぼる。「味は淡泊で、刺し身や煮付けにするとおいしいですよ」と、出雲神話に詳しい島根県立大短期大学部の藤岡大拙(だいせつ)名誉教授は話す。サメの肉は腐りにくいため、海から離れた中国山地でも古くから食べられているという。
山陰地方とサメのかかわりは、弥生時代にさかのぼる。鳥取市青谷町の青谷上寺地(あおやかみじち)遺跡では、2千年以上前のサメを描いた石製品が出土。ハンマー状に描かれた頭部からシュモクザメともみられ、信仰の対象だったようだ。
このシュモクザメが平成13年夏、稲羽の白ウサギ伝説の舞台、鳥取市の白兎海岸などに出没。海水浴客約千人が避難し、鳥取県内の海水浴場が軒並み遊泳禁止となる大騒動にもなった。
古事記の世界にとどまらず、現代社会とも深く結びつくサメ。藤岡さんは「獰猛(どうもう)な面と、古代から食糧などとして身近な存在だったことが、白ウサギ伝説につながったのでは」と話す。
(編集委員 小畑三秋)