「条約」とは一体何か。私は、沖縄県・尖閣諸島の国有化をめぐって、中国国内で発生した反日暴動や、尖閣周辺で続いている中国船の威嚇行動、日本の政府要人による靖国神社参拝への批判を見ていると、そう思う。「日中平和友好条約」というものが、どれくらいの効力があるものなのか、大きな疑問を抱かざるを得ない。
今年は、条約締結から40周年という節目だが、日中関係は最悪だ。特に、民間の経済活動には大きな支障が出ている。日本の主要産業である自動車産業への打撃、渡航客激減による航空業界の影響、在留邦人の安全確保など、個人や企業のレベルでは対応が難しい状況といえる。
ところが、日本の民主党政権に、事態打開の努力も成果も感じられないのはどういうことなのか。
報道によると、尖閣国有化後に日本領海への侵入は7回もあるという。あまりにも連日繰り返されているため、私たち国民も「慣れて」しまっているが、領海侵犯が1カ月半で7回とは尋常ではない。これは明らかな、日中平和友好条約違反である。
1972年9月29日に締結された同条約第1条には「領土保全の相互尊重、内政に対する相互不干渉」と、第2条には「アジア太平洋地域においても、覇権を求めるべきではない」と書かれている。
歴史的にも、国際法上も日本固有の領土である尖閣諸島に対する、一連の主権侵害行為は「相互尊重」に反している。中国国内で発生した日系企業や日系デパートへの襲撃・略奪行為、在留邦人への暴行もあった反日行動などは、治安を守る国家の体をなしていない。
首相や閣僚の靖国参拝は「内政」という類にもならないが、中国が彼らの言動に干渉するのは、明らかな条約違反だ。日本に照準を合わせたミサイル配備などの軍備増強、南沙諸島での強引な拡張主義は「アジアにおいて覇権を求めず」に反した行為であることは、一目瞭然ではないか。
日中平和友好条約には10年という有効期限も定められているが、1年前に通告しなければ、自然延長されるという。民主党政権はこれらの条約違反について、中国政府に対し、徹底的な抗議をしているのだろうか。そもそも、中国には条約を守り、友好関係を築く意思があるのか疑問だ。
「条約を破棄せよ」と言っているのではない。しかし、守られてもいない条約を後生大事にし、「日中友好」の名のもと、上辺だけの抗議や付き合いをすることが、主権国家としての振る舞いとは思えない。
■細川珠生(ほそかわ・たまお) 政治ジャーナリスト。1968年、東京都生まれ。聖心女子大学卒業後、米ペパーダイン大学政治学部に留学。帰国後、国政や地方行政などを取材。政治評論家の細川隆一郎氏は父、細川隆元氏は大叔父。熊本藩主・細川忠興の末裔。著書に「自治体の挑戦」(学陽書房)、「政治家になるには」(ぺりかん社)。