海に流された神「水蛭子」 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 







【古事記のうんちく】(6)えべっさん 



草莽崛起:皇国興廃此一戦在各員一層奮励努力。 


西宮神社で参拝者に授与されている「えべっさん」の御神影札(おみえいふだ)



イザナギノミコト(男神)とイザナミノミコト(女神)による国生みの際、最初に誕生したのが「水蛭子(ひるこ)」だった。しかし、きちんとした子ではなかったため、葦の舟に乗せて海へ流された。改めて2神が交わると、淡路島や本州などが誕生したが、水蛭子のその後について、古事記は何も記していない。

 この水蛭子が平安時代に突如としてよみがえり、商売繁盛の神「えべっさん」となったことは、意外に知られていない。「蛭児(ひるこ)大神」としてまつるのは、新春の境内を疾走する「福男選び」で知られる西宮神社(兵庫県西宮市)だ。

 「水蛭子という、海に流された神様がなぜ福の神になったのか。本当に不思議なお力を感じます」と話すのは吉井良昭宮司(61)。神社の由緒によると、平安時代ごろ、西宮・鳴尾の漁師が神戸の和田岬沖で漁をしていると、神像が網にかかったため家で大切にまつった。すると、漁師の夢枕にこの神が現れ、「私は蛭児の神である。丁寧にまつってもらってありがたいが、もっと西方に良い宮地がある」と告げた。漁師は神像を神輿(みこし)に乗せて西へ向かい、現在の西宮神社にまつったという。

 当初は海の神だったが、宿場町として市が開かれていた西宮では、商売の神として信仰を集めるようになった。「水蛭子は、最初にお生まれになった尊い神様であるにもかかわらず、流されてしまった。それをのちの人たちがお救いして、あがめたんです」と吉井宮司。「日本人の心の温かさ、優しさを感じます」

                              (編集委員 小畑三秋)