【古事記のうんちく】(5)「国生み神話」
「この漂える国を造り固めよ」。地上世界が混沌としていたとき、高天原の神々から「国生み」を命じられたのが、イザナギノミコト(男神)とイザナミノミコト(女神)だった。2神は天と地を結ぶ「天(あめ)の浮橋」に立ち、矛で「こおろこおろ」と海をかき混ぜると、したたり落ちた潮水が積もって島ができた。この島に降り、柱を互いに逆方向にまわって交わった。
「あなにやし、えをとこを(なんと素晴らしい男性でしょう)」。女神のイザナミが先に声をかけると、きちんとした島ができなかった。
「国生みがうまくいかなかったのは、女性が男性をリードしたから。古事記の記述は男尊女卑」。そんな見方もあるが、決してそうではない。
「男女の成長の違いを反映しているんです」と指摘するのは、イザナギをまつる兵庫県淡路市の伊弉諾(いざなぎ)神宮宮司、本名孝至さん(67)。「国生みを命じられたとき、2神はまだ中高生のように若かった。心も体も成熟していない段階で、発達の早い女性から声をかけて交わることを戒めているんです」と説く。
今度はイザナギが先に呼びかけると、淡路島や九州、本州などが次々に誕生した。「男性が成長するまで互いに待つことで、健全な島が生まれたんです」
同神宮では、男女2神が柱を回って交わったという国生み神話にならった神話婚が行われている。本名さんは挙式の際、必ず、新郎新婦に古事記に込められた意味をこう語りかける。「心身のバランスを保って、家庭を営んでください。立派な子が生まれますよ」
(編集委員 小畑三秋)