日銀式緩和は砂漠の水まき。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 








【経済が告げる】編集委員・田村秀男




野田佳彦政権は日銀に対して、今月30日に開かれる金融政策決定会合で20兆円の追加金融緩和を要求している(本紙23日付記事から)。日銀が市場から国債などの金融資産を買い上げる「資産買い入れ等基金」の枠を現行の80兆円から100兆円にせよ、というものだ。

 筆者は以前から「100兆円の量的緩和」を政府、日銀に提案してきたが、この政府案はお門違いである。日銀の現行の緩和方式を温存する限り、いくら金額を上積みしてもデフレと超円高を是正できないどころか高進させかねないからだ。

 日銀の致命的な欠陥はそのメッセージ性の弱さにある。9月に量的緩和第3弾(QE3)を打ち出した米連邦準備制度理事会(FRB)の場合、バーナンキ議長が「雇用情勢の好転」をQE3の目的として挙げ、住宅価格や株価の上昇、消費需要の拡大意図を明言している。FRBはドルを刷って、当面毎月850億ドル(約6兆8千億円)分の長期金融資産を買い増すと市場に伝えた。以来、長期金利は実質ゼロ前後で推移し、住宅市況も大幅に好転しつつある。

 欧州では共通通貨ユーロの発券銀行である欧州中央銀行のドラギ総裁が9月に、スペインなど問題債務国の国債を「無制限に購入する」と発表した。青天井でお札を刷るというのだから、ユーロは急落すると恐れる向きもあったのだが、金融市場は落ち着くようになった。

 米欧とは対照的に、日銀の資産買い入れ基金による緩和方式の意図は不明である。日銀の白川方明総裁は脱デフレや超円高について繰り返し「危機感」を口には出すが、結果を出す責任感に欠けているようにしか見えない。日銀はこの2月には「1%の物価上昇のメド」を示したが、達成目標(ターゲット)とはしないための「メド」である。

18日付の日経新聞朝刊によれば、日銀は来年度の上昇率を前年度比ゼロ%台後半とする「経済・物価情勢の展望」を30日の政策決定会合に示す方向だというから、気楽なものである。超円高はデフレを深刻化させる最大の要因なのに、日銀首脳部は「金融政策を用いて直接的に為替相場に影響を与えることは一切考えていない」と言い出す始末、つまり円高是正のための金融政策に「ノー」と言っているのだ。

 金融市場というのはそもそも、過去や現時点の相場ではなく、将来の予測次第で動く。だからこそ、バーナンキ議長もドラギ総裁も市場予想に影響するように腐心し、発言内容も明快になるよう努めるのだが、日銀の幹部たちはわざわざテクニカルでわかりにくい用語を選ぶ。日銀だけは「市場との対話」に背を向けた独善集団と言わざるをえない。

 ただ一つ、政治圧力だけは気にするようだ。日銀はこれまで政治サイドから金融緩和圧力が加わるごとに、5兆円、あるいは10兆円という小出しで基金枠を上積みする「包括緩和」でしのいできた。この方式では国債相場が上昇することだけははっきりしているから、海外の投機ファンドは安心して国債を買い増す。すると円は上昇するので、国債と円の双方で莫大(ばくだい)な売買益を稼ぐ。

 基金への20兆円上積みは、まるでデフレという名の砂漠にホースで水を少し余計にまくような仕業である。砂漠にすみ着く投機勢力というジャッカルを喜ばせるのがオチである。政府が求めるべきは日銀政策の抜本的転換なのだ。

                                     (編集委員)