ニッポンの防衛産業 建造なくても職人維持
海上自衛隊の掃海艇「さくしま」
見ためは軍艦そのものだが、釘(くぎ)は極力使わず、木を曲げることで作りあげる、わが国の木造掃海艦艇。それは船大工の技そのものである。
建造は、まず、「木を選ぶ」時点から始まる。かつてはヒノキを使っていたが、その後は米マツを使用するようになった。米北西部まで行って、樹齢200~300年のものをじっと見つめることが第1歩だ。その時点でどの部分に使用するかを見極めるのだという。
そして、日本に輸入してすぐに建造に着手するわけではない。さらに1年ほど保管し、しっかり乾燥させてから作業に入るのだ。
こうして多くの人々が介在し、手塩にかけて作り続けてきた掃海艇であったが、木材の高騰などの理由で木造は2006年度計画の18MSC「たかしま」を最後に終了した。本来の予定より前倒しで終わってしまったため材料の保存など、1000社ほどの関連企業も含め余波が広がったという。
一方で、08年度艇からFRP(強化プラスチック)を使用することになり、建造元のユニバーサル造船は木造艇ストップのダメージを受けながらも、そちらの準備も進めていた。建造費は約1割高いが、寿命は木造艇の16年に比べ倍に延び、ライフサイクルコストが下がることがFRP導入の大きな理由だ。
ところが、またも10年度艇の建造が飛び、始まったばかりのFRP艇製造にいきなり空白が生じたのだ。
「FRPも木造艇と専門性は同じなんです」
同社関係者は肩を落とし、建造がなくても職人を維持しなければならない戸惑いを抱えながらのスタートとなった。
こうしたスケジュールの度重なる変更が関係企業に与える影響は後々まで響く。海外研修などFRP技術者養成にかかったコスト、あと20年は運用が続く木造艇部材の確保やメンテナンス要員の維持などを考えると、プライム企業として日本の掃海艇を支えられるかどうか、苦悩はまだ続いている。
木を削る音と木材の香りの中で誕生した小さな掃海艇であるが、世界の大舞台で活躍する場面は今後さらに増える可能性がある。そこに新たにFRP艇も加わる日も近い。それは国内メーカーの役割が増すことでもある。
職人さんは1991年の海上自衛隊ペルシャ湾派遣の際はパスポートを取って密かに待機していたという。どんな遠い海で活動しようとも送り出した「わが子」に責任を持ち、自然な感情で自衛隊の活動と一体となっている。そんな作り手たちも日本の国際活動を支える一員と言っていいだろう。
■桜林美佐(さくらばやし・みさ) 1970年、東京都生まれ。日本大学芸術学部卒。フリーアナウンサー、ディレクターとしてテレビ番組を制作後、ジャーナリストに。防衛・安全保障問題を取材・執筆。著書に「誰も語らなかった防衛産業」(並木書房)、「日本に自衛隊がいてよかった」(産経新聞出版)など。