拉致被害者が証言。1990年代末。
韓国への非軍事的な工作活動を展開する北朝鮮の工作機関「統一戦線部」に1990年代、「多数の日本人が工作員として勤務していたと聞いた」と、帰国した拉致被害者が証言していることが18日、捜査関係者への取材で分かった。統一戦線部は、70(昭和45)年に日航機「よど号」を乗っ取り、北朝鮮に渡った元共産同赤軍派のメンバーらも管轄していたとされる。よど号犯グループ以外にも、北朝鮮に渡って工作活動に加担した日本人がいた可能性が浮上した。
証言したのは、昭和53年7月に福井県小浜市の海岸から拉致された地村保志さん(57)と富貴恵さん(57)夫妻。日本人工作員らが「拉致されてきたかどうかは、わからない」としている。
1997年か98年ごろ、富貴恵さんが平壌から北に約10キロ離れた工作員専用の医療機関「915病院」に入院した際、別の患者の女性から「統一戦線部には日本人工作員が多くいて、貿易関係の仕事に従事している」と聞いたという。
地村さん夫妻は警察当局に「(自宅で)食事を作ってくれるおばさんが(統一戦線部にいるのは)日本人だと言っていた」「日本人の夫婦みたいなのがいると聞いた。自覚を持って(工作)活動にあたっており、外国も往来していると聞いていた」と証言した。
よど号犯グループは北朝鮮で、自ら北朝鮮に渡った日本人女性らと結婚。貿易会社を運営し、1980年代後半まで、日本に潜入したほか、東南アジアや欧州、アフリカなどで活発に活動していた。88年5月、メンバーとその妻が相次いで日本国内で逮捕された後、海外での活動は急減した。
警察当局は、地村さん夫妻が聞いた情報は90年代末の状況を指しているとみており、よど号犯グループとは別の日本人らが工作員として活動していた可能性があるとみている。
よど号犯グループは海外で工作活動をする一方、思想的に共鳴する日本人をリクルートし、北朝鮮に誘い込んでいたことが警察当局の調べで判明しており、こうした日本人が統一戦線部に配置された疑いもある。
これまで、拉致被害者が工作員として利用されたケースは確認されていないが、富貴恵さんは北朝鮮に拉致された後、指導員から「拉致したのは、工作員にするためだ」と告げられていたことが判明している。