宣伝工作に負けている日本。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 






【危機の正体】尖閣問題で中国の「失地回復」


草莽崛起:皇国興廃此一戦在各員一層奮励努力。 





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9月末、米紙ワシントン・ポストと、ニューヨーク・タイムズに掲載された「釣魚島(日本名・尖閣諸島)は中国領だ」とする広告(共同)




前回、中国側の尖閣諸島領有に向けたスローガンが「失地回復」であると紹介した。尖閣はもともと中国の領土であったが、日本が盗んだ。それを今、取り返そうとしているというのだ。

 もちろん、こんな話は歴史の事実に反する。しかし、このような“物語”でも、一定程度の説得力を持つ。尖閣諸島がどこにあるのか、どのような歴史的経緯があるのかについて関心や知識のない、世界中の圧倒的多数の人々にはこのような説明で十分なのだ。

 チベット文化研究所名誉所長のペマ・ギャルポ氏によれば、最近、ブータン、ネパール、モンゴル、タイを訪問し、現地の政治家、ジャーナリスト、有識者と意見交換したが、中国側の言い分が相当浸透し、日本の主張はほとんど理解されていないという(『教育再生』10月号)。

 中国側は「失地回復」という“物語”をつくることで尖閣領有の大義名分を得た。加害者が被害者にすり替わり、国際社会から同情されるトリックの作成に成功したのだ。日本側から見ていくら荒唐無稽であっても、これによって尖閣領有を世界に向けて堂々と主張できるようになった。

 尖閣を「日本が盗んだ」とする国連演説ばかりか、「ニューヨーク・タイムズ」や「ワシントン・ポスト」というアメリカの主要紙に2面ブチ抜き広告を掲載し、アメリカ政府や議会関係者に盛んにロビー活動を行っているのはそのためだ。

 これに対して、日本側は外務省がパンフレットを作成、藤崎一郎駐米大使がアメリカのニュースサイトに投稿、ニューヨーク駐在の首席領事がテレビに出演するなどして反論しているが、いずれも大まじめに歴史的な経緯を細々と説明する技術的な話に終始している。

 しかし、これでは、この情報戦に勝てない。中国側の「失地回復」をしのぐ、日本側の尖閣領有の正当性を説得力をもって説明できる“物語”が必要だ。

 中国側は伝統的にプロパガンダや情報戦・心理戦にたけている。「南京大虐殺」は日本に批判の矛先を向けさせる典型的な戦時プロパガンダだったが、いつの間にか、国際社会では歴史的事実として扱われるようになった。これと同じことが尖閣領有をめぐって行われているのだ。

 日本は自分では固有の領土を奪われようとしている被害者と思っているが、国際社会はそうは思っていない。中国の領土を「盗んだ」加害者として位置づけられようとしている。国際社会は日本人が思うほど甘くない。

 

八木秀次(やぎ・ひでつぐ) 1962年、広島県生まれ。早大法学部卒業。同大学院政治学研究科博士課程中退。国家、教育、歴史などについて保守主義の立場から幅広い言論活動を展開。第2回正論新風賞受賞。現在、高崎経済大学教授、フジテレビジョン番組審議委員、日本教育再生機構理事長。著書に「国民の思想」(産経新聞社)、「日本を愛する者が自覚すべきこと」(PHP研究所)など多数。