ユーモアで切り返す“大人の余裕” | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 








【40×40】笹幸恵




海上自衛隊観艦式の事前公開で、ヘリコプター搭載護衛艦「いせ」に乗った。風は強かったものの、天候に恵まれ、格好の見学日和。飛行甲板の案内に立っていた若い海士に撮影ポイントを聞き出し、最適な場所(飛行甲板のやや前方左舷)に陣取った。あとは観艦式と訓練展示を待つばかり…だったが、いよいよ時間が迫ってきたところで、移動せよとの指示。ヘリの発着艦があるという。乗艦者たちは甲板前方に集められ、安全柵の中に押し込められてしまった。せっかく撮影場所を確保したのに。安全のためとはいえ、不満は募る。

 乗艦者たちのザワついた空気を一変させたのは、あるベテラン海曹だった。1カ所に集められた乗艦者に対して、「観艦式が初めての人、手を挙げてくださ~い」「2回目、3回目の人~」「おお、ツウですね~」と言って笑いをとっている。こうして注意を引き付け、毛布や敷物がヘリの風圧で飛ばないよう呼びかける。ついでに「お子さんを将来、自衛隊に入れたい人~?」「ぜひ地方協力本部(入隊の相談窓口)にご相談くださ~い」と、ちゃっかり隊員募集まで行っていた。

移動が一段落すると、またザワつき出した。安全柵の目の前に、「艦載救難作業車P-25(ヘリが艦上で火災を起こしたときに使用する消防車)」が置かれたからだ。この正面にあたった人はたまらない。ヘリが見えなくなってしまったのだ。案の定、1人の男性がゴネはじめた。「なんでこんなモノ、俺の目の前に置くんだ!」。するとベテラン海曹は言った。

 「このアメリカ製の消防車を、こんな間近でじっくり見られるチャンスはめったにありませんよ」

 ドッと笑いが起きた。海曹のほうが一枚上手、男性も苦笑い。

 人も国も同じ。理由があろうがなかろうが、どこでもゴネる輩(やから)はいる。理屈が通らないからと言って、レベルを下げて同じ土俵にまで降りる必要はない。ユーモアで切り返すくらいが“大人の余裕”ではなかろうか。

                                  (ジャーナリスト)