自衛隊「海兵隊化」の問題点。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 






【国防最前線 日本が危ない】


草莽崛起:皇国興廃此一戦在各員一層奮励努力。 



草莽崛起:皇国興廃此一戦在各員一層奮励努力。 

     米軍が使用している水陸両用車。防衛省も島嶼防衛のために導入を予定している(AP)


求められる統合運用の強化


 なぜ今、自衛隊の「海兵隊化」が言われ始めたのか。それには島嶼(とうしょ)奪還というシナリオが現実味を帯びてくる中、まず一番に行くのは米海兵隊であることへの疑問もあるだろう。「先に海兵隊に血を流させるのか?」。そう思うのは日本人だけでなく米国側にしても当然だ。

 しかし、ただでさえ自衛隊の予算は削減の一途をたどり、人も減らされている。新しいものを作るには、現有の何かを止めるという発想しかできないのが現状だ。そうなると、すでに破綻していると言っていい組織が強くなるどころか、さらに弱体化してしまう皮肉な結果を招くことになる。

 中でも一番人員が多いからと、陸上自衛隊の一部を海兵隊にしてしまおうなどというのは、あまりに乱暴だ。災害時には間違いなく大きな期待が寄せられるであろう彼らにも容赦なく削減の波が襲っている。それなのに、「地域に根差した郷土部隊」と言ってみたり、「南西防衛にシフトする」と言ってみたり、そんな人も物も伴わない掛け声のしわ寄せは個々の隊員が背負う。

 海兵隊は短期間運用のパッケージ機能を持つ組織であり、その後には陸軍(陸自)が続く。つまり、陸自としての戦力を保持することは不可欠なのだ。全てが前方戦力になることはあり得ない。どちらかといえば、この着想は現在進行中の陸・海・空自衛隊の統合運用であると言った方がふさわしく、でき得るならこの統合運用こそ機能強化させるべきだろう。

 もし仮に、日本に海兵隊を作るならば、「第4の軍」として新たな概念で創設するならまだ分かる。しかし、それには莫大(ばくだい)な予算の増額&法改正がセットでないとならない。

 そこで今、防衛省が着手しようとしているのは「海兵隊的な」装備の調達だ。具体的に言えば水陸両用戦力である。今次、概算要求では米海兵隊が使う水陸両用車「AAV7」4両が盛り込まれた。

 ただ、これで日本に海兵隊ができるとか、米海兵隊は必要なくなるなどと言うのは大間違い。これまで足りなかった水陸併用能力を付けることは重要だが、どう使うのかはこれからじっくり考えねばならないし、教育・訓練には数年単位の時間を要するのが通常だ。

 その間、米海兵隊との共同訓練を強化するとともに「専守防衛」や憲法解釈との整理を進める必要がある。つまり、日本独自の水陸両用戦力を充実させるには、当面ますます米海兵隊との信頼醸成が必要となるのだ。

 

桜林美佐(さくらばやし・みさ) 


 1970年、東京都生まれ。日本大学芸術学部卒。フリーアナウンサー、ディレクターとしてテレビ番組を制作後、ジャーナリストに。防衛・安全保障問題を取材・執筆。著書に「誰も語らなかった防衛産業」(並木書房)、「日本に自衛隊がいてよかった」(産経新聞出版)など。