【塩爺のもう一度よく聞いてください】
中国では沖縄県・尖閣諸島の国有化に抗議する大規模な反日デモが続いている。9月の国連総会の一般討論演説では楊潔●(よう・けつち)中国外相が「日本が盗んだ」と発言し、日中間で激しい応酬となったが、尖閣諸島が日本の固有の領土であり、中国側が主権を主張するのはおかしい。
私は東洋大学役員としての報酬を原資に提供し、平成14年度からアジアの留学生に「塩川正十郎奨学金」を給付している。親日家を育てるために始めたこの制度の、のべ84人の対象者のうち51人が中国出身者だ。それだけに、中国が日中国交正常化40周年の記念行事を中止したことは極めて残念に思う。
中国は、昭和47年の国交正常化以来、経済発展のため日本の政府開発援助(ODA)を利用してきた。その年、国交回復のため訪中した田中角栄首相(当時)に、毛沢東主席(同)は「もうけんかは終わりましたか?」と語りかけた。20周年の節目である平成4年には天皇陛下が中国をご訪問され、両国関係は比較的良好に推移してきた。
今思えば、1996(平成8)年という年が、中国が反日感情を強める転機となったのではないか。当時の江沢民国家主席は包括的核実験禁止条約(CTBT)採択直前に核実験を行った。以前にもこのコラムで紹介したことがあるが、同年4月に訪中した私たち自民党訪中団に、江主席は「われわれが核兵器を保有するのは平和を守るためだ」と強弁したものだ。江沢民時代からの大国意識はなお強まる一方だ。
長い時代、民主主義の経験のない中国は、われわれと価値観を共有する国ではない。日中友好7団体による訪中団は9月27日、共産党序列4位の賈慶林(か・けいりん)・全国政治協商会議主席と会談したが、両国間のパイプは次第に細くなっている。
内閣府が昨年秋に実施した「外交に関する世論調査」によると、日本国民の71・4%が中国に「親しみを感じない」と答えた。日中関係を「良好だと思わない」とした回答も76・3%に上った。2005(平成17)年以降の反日デモで理由もなく攻撃された日系企業の惨状を見せられては、日本での対中感情はさらに悪化する一方だろう。
日本を抜いて世界2位の経済大国となることに成功した中国は軍事大国にもなり、いずれ旧ソ連のように米国と覇権争いをするはずだ。
島根県・竹島にも韓国の李明博大統領が不法上陸し、日本は周辺国になめられっぱなしである。こんな時こそ、憲法改正によって国家の意思を示そうと決意すべきだ。
連合国軍総司令部(GHQ)に押しつけられた憲法は昭和22年5月の施行から一度も改正されていない。
憲法前文は「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」としている。また、憲法第9条2項には「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」とある。
こうした条文は、周辺国の経済大国化、軍事力強化、領土主権を脅かされている実情からして、国家としての体制にそぐわない。今こそ、自らの努力で国家の生存を確保する決意を示す憲法に改める必要がある。
(元財務相・塩川正十郎)
●=簾の广を厂に、兼を虎に