【今日の突破口】ジャーナリスト・東谷暁
来るべき衆議院選挙では、どのようなかたちになるにせよ、自民党が政権に返り咲く可能性が高い。しかし、その政権が、晴れがましい状況の中で楽々と華やかな政策を繰り出せるかといえば、そうではない。
最大の試練はいうまでもなく外交であり、尖閣問題への対処だろう。私見によるが、このままでは尖閣はうまくいって再度の棚上げ、下手をすれば世界中が中国の主張をそのまま認めることになりかねない。
先日、米紙ニューヨーク・タイムズに、有名コラムニストが中国側の「日本が1895年に戦利品として中国から奪った」という主張をうのみにして、「中国の立場に同情を感じる」と記した。あきれた話だと思うが、これを同紙の立場が中国寄りだからと、単純に決めつけられないところが問題なのである。
たとえば、英経済誌エコノミストなども、中国国内の日本企業攻撃には批判的だが、尖閣問題そのものに関しては中国の主張を一応は認めて、日中では歴史認識が違うのだから「海洋保護区にすることで合意してはどうか」などという見当違いの提案をしている。ほかの海外メディアでも、尖閣諸島の付近の海域を立ち入り禁止水域にすればいいという提案をしているものがあり、問題の核心からは目を背けている。
読者のなかには、レオン・パネッタ米国防長官が玄葉光一郎外相に尖閣は日米安保の対象と語ったので「もう大丈夫」と考えておられる方がいるかもしれない。しかし、かつてモンデール元駐日大使は尖閣を「安保条約の対象」であるとするいっぽう、中国が尖閣を軍事占領しても「米軍の軍事介入を強制するものではない」としていた。
最近も、アーミテージ元国務副長官が「日米安保の対象」であっても「日本が自ら尖閣を守らなければ、われわれも尖閣を守れない」と述べている。米国が「日米安保の対象」と発言したからといって、米国が尖閣を日本に保障したと解釈するのは、あまりにも能天気というしかない。中国は執拗(しつよう)に尖閣領有を主張して日本に対し威圧するだろうが、安保条約があれば、米国が自動的に軍事介入するわけではないのだ。
もうそろそろ、「中国は早晩崩壊する」だとか、「米国が守ってくれる」といって溜飲(りゅういん)を下げたり安心するのはやめてはどうだろうか。いまの中国に激しい景気後退がおこっても、中国経済は毛沢東時代には戻らないし、景気後退があっても中国が軍事費を減らさないことは、これまでの歴史が証明している。
そもそも、この数年で次々と領土問題が頻発しているのはなぜだろうか。それはもちろん民主党の外交失態にもよるが、それだけではない。米国が次第に東アジアからは後退する兆候を見せているからではないのか。そのことをロシアも韓国も、そして中国も、しっかりと観察しているのだ。
尖閣問題はそうした変動の時代の前触れであり試金石なのだが、このままでは信じられないような屈辱的な事件が待っているだけだろう。新しい政権には憲法の条文を変えるだけではなく、いまの日本人の意識そのものをも変えるという、大業が課せられることになる。そしてそれは新たな「臥薪嘗胆(がしんしょうたん)」の時代に他ならない。
(ひがしたに さとし)