世界で最も信頼が厚い海自掃海部隊。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 






「いざ」というときに備えて実機雷処分訓練を継続。


草莽崛起:皇国興廃此一戦在各員一層奮励努力。 


2012.10.04(木)桜林 美佐:プロフィール


草莽崛起:皇国興廃此一戦在各員一層奮励努力。 



















 国防の要諦は、まずはいずれにも手出しをさせぬ、その気を起こさせぬ、という力の保持であり、また、何か事が起こりそうならば、それに先んじて事態を想定し予防策を整えることであろう。

 しかし、わが国はこの両方ともなおざりだと言わざるを得ない。普天間移設問題を混乱に陥れ、基地はいらない、オスプレイは出ていけと日米同盟を自ら揺さぶり、中国・韓国・ロシアに「その気」を起こさせた。

 そして、国際情勢を見るべき時にも政局に釘付けになりがちな私たちは、世界で何が起きているのか考える暇がなく、すでに起きたことへの対処しか今のところできていない。

 ドロボウが近寄れない態勢を築くのが国の防衛であり、「ドロボウが出てから捕まえる」がごとき国防ではならないのだが、今の日本は目の前にドロボウがいても手をこまねいているのが実情だ。

実戦と紙一重だったペルシャ湾掃海訓練

 前置きが長くなったが、9月は政府による尖閣諸島の国有化、それを受けての中国でのデモ、代表選に総裁選とニュースが目白押しで、わが国にとって重大なトピックスが大きく取り上げられる余地がなかった。

 それは、海上自衛隊掃海部隊によるペルシャ湾での大規模な国際掃海訓練だ。9月16日から27日までの2週間近くにわたり、30カ国ほどが参加した。海自は掃海艦「はちじょう」と掃海母艦「うらが」を派遣している。

 ペルシャ湾やこの周辺の海域は、原油輸送の大動脈だ。日本の原油自給率はわずか0.4%で99.6%は輸入、そのうち86.6%は中東に依存している。つまり、私たちの日常生活の安寧は、この海域が無事に通過できなければ決して得られないと言っていい。

 ところが、核開発疑惑に対する圧力に反発したイランが、ペルシャ湾口であるホルムズ海峡を機雷によって封鎖することをほのめかし、この生命線であるシーレーンに暗雲が立ち込め始めたのだ。


そんな中、今回、米国を頭にしてこれだけの国が、それぞれに輸出国であるイランを刺激したくない、参加していることを知られたくないなどの思いがありながらも、海洋航路の秩序維持に向け協同し意思を示したインパクトは大きい。

 そして、この訓練は単なるデモンストレーションではない。事と次第によっては「実動」につながる可能性をはらんでいたことが最大の特徴だ。つまり、実戦と紙一重だったのだ。訓練期間中に、もしイランがホルムズ海峡の機雷封鎖を強行した場合、海自掃海部隊に対し即出動の期待の目が向けられた可能性は高い。

硫黄島で続けられてきた実機雷訓練

 これにはしかるべき根拠がある。1991年の「湾岸の夜明け作戦」だ。湾岸戦争後、やはりペルシャ湾に派遣された海自掃海部隊は、木造の小さな掃海艇を駆使し、あらゆる悪条件を乗り越え、34個もの機雷処分に成功したという実績を持つ。

 「よくこの船でここまで来たな」

 とっくに現地で活動していた各国部隊は皆、目を見張ったという。海外での運用を想定していなかった掃海艇で、はるばるインド洋を経由したどり着いただけでも彼らを驚かせたが、さらにその実力のほどを発揮し、日本の掃海部隊の名を世界に知らしめることになったのだ。

 これには、戦後、海上保安庁から引き継ぎ、一度は中断したものの、硫黄島での実機雷処分訓練を絶やすことのなかった関係者たちの不断の努力がその背景にあった(詳しくは拙著『海をひらく―知られざる掃海部隊 』をご参照下さい)。

 その後も、年々厳しさを増す防衛費の中で実機雷訓練を継続し、決して順風満帆ではないが掃海艇をはじめとした装備調達を続けてきたことにより、米国から即戦力として最も期待される部隊と言われ続けている。


また、海自は2011年10月にペルシャ湾で行われた米英共催の掃海訓練に参加し、圧倒的な成果を上げた。このことで、改めて「いざとなれば頼む」という暗黙の認識が生まれたことは想像に難くない。

日本はもっとリアリティーのあるエネルギー論議を

 しかし、では「いざ」という時が来た場合に、海自掃海部隊がすぐに出動できるのかと言えば、これもご多聞に漏れず困難な状況だ。

 かつてペルシャ湾派遣の法的根拠は、自衛隊法99条「機雷等の除去」であった。停戦合意がなされた後の「遺棄機雷の処分」であるがゆえに可能との見解である。

 仮に今般、イランによる海峡封鎖となり海自への機雷処分要請がなされた場合、そこが戦闘地域かどうか、米国をはじめとする他国との協同が集団的自衛権に当たるか否かなどの議論に時間を割かれる可能性は大だ。そんな小田原評定の間に原油輸送のリスクがどんどん高まり、日本経済にも多大なダメージが及ぶことになろう。

 繰り返しになるが、事態が起きてからの対処では国防にはならない。現行法でできることや、あるいは特措法で補完すべき点など、入念な準備が不可欠だ。わが掃海部隊を活かせるかどうかは政治にかかっているのだ。

 それにしても、日本では真にリアリティーのあるエネルギー論議がなされていないように思える。「そんなことはない」という反論もあるかもしれないが、例えば尖閣問題も領土そのものもさることながら、シーレーン問題として捉える必要があるだろうし、また、「反原発」論争にしても、わが国が現時点で、これほどに不安定なエネルギー輸入国であることに目を瞑ってはならないだろう。確かに、地震大国である日本に多くの原発があることは不安要素だ。しかし、遠く海の向こうの資源だけに国の生殺与奪を任せる不安も同様にある。

 今のところ日本はかくのごとく不安定な国であることを自覚し、少しでもそれを軽減すべく措置を急ぐことが必要ではないだろうか。

 湾岸の夜明け作戦から20年、自衛隊の国際活動は新たなタームに入っていい頃だ。