連載:ニッポンの防衛産業
81式短距離地対空誘導弾(防衛省HPから)
「東芝」といえば、洗濯機、冷蔵庫、テレビ…、おなじみの家電の数々を産み出してきた代表的メーカーだ。
そのはじまりは明治8(1875)年にさかのぼる。東京・銀座に「あらゆる機械の考案を引き受けます」という看板を掲げ、店舗を兼ねた工場を立ち上げたのは「からくり儀右衛門」こと田中久重。8歳の頃から発明・工夫に没頭し、「人々の生活を明るく楽しくしたい」という夢を生涯追い続けた人物である。
金もうけ目的の仕事を依頼されたとき、「国家に有用な機械を作る以外に利欲ない」と断ったという逸話も残る。その、世の中のための発明と工夫の遺伝子は今に引き継がれ、防衛部門でも生きている。
81式短距離地対空誘導弾(通称「短SAM」)は、陸上の部隊の拠点防衛用の低空域ミサイルシステムで、防衛省・技術研究本部と東芝が共同で開発し、昭和56(1981)年に制式化、同種のものでは初めて純国産を達成した。防空のため陸上自衛隊の全師団に配備された他、航空自衛隊でも導入された。
73式大型トラック3台に、それぞれ射撃統制装置と発射装置を搭載し運用する。複数の攻撃を同時に捉え追跡できるのが特徴だ。これは世界に先駆けた技術であった。
しかし、敵もさるもの。その後こうした地対空ミサイルを無力化する妨害機能が発達したのだ。これを受け、短SAMは改良され、現在は「短SAM改」として成長させたバージョンの配備が進んでいる。こちらでは、攻撃してくる航空機からの妨害の種類によって、光波弾と電波弾を使い分けることが可能だという。
さらに画期的なのは噴射煙だ。よく自衛隊の写真集やカレンダーなどでミサイル発射の瞬間を捉えているものがあるが、見た人が「これは煙がたくさん出ているからカッコイイ!」と言ったという話がある。
しかし、実はこの評価は逆で、煙が少ないほうが技術的に高度であり、また、こうした装備には重要なことなのだ。答えは簡単、モクモクと煙が出れば所在地が発見され攻撃を受けやすいのだ。「煙は少ないほうがいい」のである。
私たちの気付かないどこかで、私たちの国土を狙う兵器開発は進められている。それを使わせることなく安心して暮らせているのは、こちら側にも国土を守る技術開発に努めている人々がいて、それを国が続けているからに他ならない。もちろん、これらを使う自衛隊が目を光らせていることは言うまでもない。
そういう意味で、この分野の技術革新は、まさに国民の生活を「明るく楽しくするため」に不可欠だといえるだろう。短SAMは来年から陸自に次世代型の配備も始まる。
■桜林美佐(さくらばやし・みさ)
1970年、東京都生まれ。日本大学芸術学部卒。フリーアナウンサー、ディレクターとしてテレビ番組を制作後、ジャーナリストに。防衛・安全保障問題を取材・執筆。著書に「誰も語らなかった防衛産業」(並木書房)、「日本に自衛隊がいてよかった」(産経新聞出版)など。
