「次の首相」となる可能性がある自民党の新総裁選びに、5人の候補者が乱立する。背景にあるのは、各派閥が抱える複雑な人間関係や、野党転落以降に党内で高まった世代間の確執だ。ただ、いずれの候補も1回目の投票で過半数を獲得するのは難しい情勢。水面下では決選投票を見据え、「連携」の可能性を探り合う動きも活発になっている。(赤地真志帆)
総裁選の構図を複雑にしたのは「派閥」の溶解だ。
最大派閥の町村派は現会長の町村信孝元官房長官と安倍晋三元首相がともに出馬を譲らず、分裂選挙に突入した。派内のベテラン・中堅の支持を固める町村氏に対し、安倍氏は「脱派閥」を訴え、若手や他派閥の保守系議員らを核に派閥横断型の選挙態勢を組む。
第2派閥の古賀派からは林芳正政調会長代理が出馬する。派閥会長の古賀誠元幹事長は13日の派閥会合で「林氏を結束して支援したい」と訴えたが、この席に同派に所属する谷垣禎一総裁に近い議員の姿はなかった。再選を目指していた谷垣氏の出馬に待ったかけたのが、ほかならぬ古賀氏だったからだ。
派閥内の対立に加え、選挙戦の構図を一気に流動化させたのが、現執行部内に生じた確執だ。
石原伸晃幹事長が2日、「私は谷垣氏を支えるために政治をやってきたのではない」と総裁選出馬に意欲を示したことをきっかけに、両氏は何度も一本化調整を行ったが、結局、谷垣氏が出馬を断念。石原氏に対し「平成の明智光秀だ」との悪評も立つ。麻生太郎元首相は「石原氏を支援する人の神経がよく分からない」とまでこき下ろした。
一方、自民党内では野党転落以降、政権奪還に向けた世代交代論が叫ばれてきた。この声に推されて出馬したのが安倍氏であり石破茂前政調会長だ。
石破氏は、各種世論調査で「新総裁にふさわしい人物」のトップに立つ。特定の派閥の支持がない石破氏だが、こうした世論を追い風に地方票で圧勝し決選投票に進む戦略を描く。
だが地方票では候補者が増えれば増えるほど1人の候補が大量得票を得るのは難しくなる。町村、林両氏の出馬には地方票での石破氏独走を阻む狙いがあるとの見方もある。その先にあるのは石原氏との連携だ。
これに対し脱派閥で支持層が重なる石破、安倍両陣営は決選投票での「2、3位連合」を模索する。
「首相のにおいがしてきたら雨後の竹の子のように次々と手を挙げる。次の首相を選ぶ選挙なのに内輪の権力争いと映ってしまい、党の支持率が下がることを非常に恐れている」
思惑入り乱れる総裁選の現状を伊吹派会長の伊吹文明元幹事長はこう嘆いた。