夕刻の備忘録 様のぶろぐより。
国益とは「国民の誇り」、その総和である。
他国の定義は知らない。少なくとも我が国においては、国家の躍進は、国民の確信によってもたらされる。日本国に対する誇りが、その唯一の原動力となる。その結果が、経済的発展であり、文化的充実である。しかし、それはあくまでも結果である。誇りを傷付けられた上での経済や文化の発展・充実は、それが仮にあったとしても、決して国益を増したことにはならない。誇りが傷付けられ、打ち捨てられるなら、清貧こそ国益に叶う道である。
情けない「お国のため」なき自民
元駐タイ大使・岡崎久彦
消費税法案の成立は近来にない快挙である。
ただ、年来一貫して自民党支持の私として、最後の段階で自民党が解散の予定明示を要求したゴタゴタは頂けなかった。自民党は最後には合意して良識の党たることを示したが、途中では公明党の方がよほど立派な印象を与えた。
≪不信任や解散要求はヘンだ≫
解散・総選挙を求める大義名分はどこにあるのだろう。
一体改革という歴史的業績を達成したパートナーの政権の信任を問うのは、どう考えてもヘンである。「民主党がマニフェスト(政権公約)にないことをしたのだからその責任を問う」に至っては何のことか分からない。その実現に協力したのは自民党ではないか。 そもそも、従来の自民党の主張を実現してくれた民主党が内閣の不信任に値するだろうか。
その背景としての経緯は理解できる。鳩山由紀夫、菅直人という、おそらくは日本憲政史上最低の内閣が続いて、国民を不安のどん底に陥れ、民主党の命運は尽きたと思われた。それが大震災直前の状況だった。
ところが、野田佳彦内閣ができて、まずTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)加入交渉に入るという政治的に難しい決断に踏み切り、次いで自民党が半世紀解決できなかった武器輸出三原則の緩和を実施し、そして、税と社会保障の一体改革という大事業を自民党と協力して完成させた。
こういう状況と、民主党はすでに国民の支持を失ったのだから、直ちに解散・総選挙をせよという従来の主張が重なって、このような珍現象が生じたのであろう。
自民党の党利、党略からいえば、それはまだ正しいかもしれない。野田内閣はその業績にもかかわらず支持率は上がっていない。次の選挙では、自民党が勝つ可能性が大きいからである。
選挙の名分としても、そもそも当初のマニフェストからはじめて民主党がやってきたことは支離滅裂であった。それを心機一転して国家的政策に取り組むというならば、もう一度選挙をし出直してこいというのは一つの理屈である。
≪政局混迷で好機逃すべからず≫
確かにいろいろな理屈はつく。ただ、自民党にとって情けないのは、こうした議論の中で、何がお国のためか、という言葉が全く欠如していることである。
日本という国の政策遂行能力は、2007年の参院選での自民党敗北以来麻痺している。それまでに安倍晋三内閣は戦後半世紀の懸案だった教育三法を改正し、国民投票法も制定し、防衛庁も省に昇格させた。そこまでだった。福田康夫内閣の後の麻生太郎内閣は意欲はあったようであるが、リーマン・ショックの後始末に追われているうちに総選挙の機会を逸し、任期満了の選挙に大敗した。
その間、中国の軍事力の急成長によって、東アジアの軍事バランスは一変している。経済の停滞も20年続いて、その間、他国との競争にじりじりと負けても無為無策に過ごしてきた。
それが急に三党の協力で国家的政策に取り組めるようになったのである。お国のためということを考えれば、このチャンスがある間は、それをミスすべきできない。解散・総選挙などで、また政局を混迷に陥れる余裕などない。
≪三党協力下の懸案解決に期待≫
自民、民主の協力で今すぐにでもできることはある。集団的自衛権の行使は、石破茂氏の営々たる努力の結果、7月に安全保障基本法の自民党案ができている。
野田政権としても、原則的には異存はないはずであり、自民党総務会まで通っているのだから、修正が必要ならば、話し合いで合意できることは、消費税と同じ構図である。半世紀以上の懸案の解決は目前に見えている。
もしこれについて合意ができるのならば、解散の日取りさえも確約してもかまわないと思う。これと消費税の二つで何十年に一度の名内閣と呼ばれる業績である。
政局への考慮は捨象してほしい。民主党議員の多数は、次の選挙に確たる自信のない人々である。増税反対、TPP反対、農業保護などのポピュリズムに訴えることに活路を見いだそうとするかもしれない。また、偏向教育の影響の残滓を頼りに、護憲論で集団的自衛権反対の立場を取るかもしれない。たとえ、それで民主党の議員のさらに多くが去っても、自民-民主の協力があれば、政策は実施できる。
身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあるなどという説教を野田政権に向かってする気もない。個々の政治家や政党の浮沈は問う所ではない。お国が浮かべばよいのである。
ただ、なんとなく、野田総理はそのあたりのことは分かっていられるような気がする。 なお、蛇足であるが、最近訪日したカーター国防副長官は、森本敏防衛相と会談した印象を絶大な賛辞で報告している。こういう例外的な建設的対話関係が日米間にできている政権を短期で交代させるという一事をもってしても、早期退陣はもったいないと思う。
全く同意出来ない自称「正論」である。
「年来の自民党支持者」なら、何故「消費税法案の表と裏」を見ないのか。附則第十八条をこれに持ち込んだのは自民党であり、民主党ではない。未だに民主党には、具体的な景気対策も、その意志すらもない。増税に縋ろうとする民主党と、景気回復により「増税時期を少しでも遅らせよう」とする自民党を同列に論じている。意図的でなければ無知である。
続いて、TPP交渉に入ることが「政治的に難しい決断」であったと書いているが、条約の意味も理解せず、何の判断も示さず、国会から逃げるように外遊に出て誤魔化した。それが「決断」なら、夏休みの宿題から逃避する小学生でも「決断」したことになろう。
「自民党が半世紀解決できなかった武器輸出三原則の緩和を実施」に至っては笑止千万の物言いである。彼等は「自民党が半世紀解決できなかった問題」を、全て解決出来る立場にある。何故なら、それに反対し、潰してきたのは彼等自身だからである。最大の反対派が転じれば、何でも通ることは当り前の話ではないか。
消費税と集団的自衛権の問題を解決すれば、「何十年に一度の名内閣」と呼ばれる資格があると言うが、これまた「民主党さえ存在しなければ」、その実質的中身である旧社会党さえ存在しなければ、遙か昔に自民党が為し得ていた話である。何故、ここまで馬鹿なことが書けるのか、全く理解に苦しむ。
そして「麻生太郎内閣は意欲はあったようであるが、リーマン・ショックの後始末に追われているうちに総選挙の機会を逸し、任期満了の選挙に大敗した」とも書いているが、余りにも経済を軽視した発想である。「百年に一度の世界恐慌」が叫ばれた問題に対して、その「後始末に追われているうちに……」とは、不見識にもほどがある。「大敗」をも覚悟しながら、経済危機の回避に全力を尽くした麻生内閣こそ、党利党略ではない、まさに「お国のため」があったのではないのか。
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冒頭の結論に戻る。「お国のため」とは何であるか。それは「国民が誇りを持てる国家の在り方」を護ること。他国の辱めを受けないこと。無礼、不作法な者は、人であれ国家であれ、断固排除すること。それが「国のため」である。即ち国益に叶うことである。
然るに現内閣はどうか。彼等は、我々の誇りをズタズタに引き裂いた。その最大のものが、民主党全党挙げての「皇室軽視」である。御前で居眠りをした者、ヤジを飛ばした者、礼服を怠った者、無礼者の数知れず。そして現総理は、日本歴史上最大の侮蔑を行った某国大統領に対して、自らの意志を発する記者会見も開かず、ぶら下がりにも応じず、立ち止まることもせず、歩きながら「遺憾の意」を表明しただけである。そして、竹島に関する委員会も開かせず、この重大問題から逃げ回っている。
具体的な制裁措置に関しては、政治的な駆け引きもあろう。時期が問題となることもあろう。しかし、その「無様な振る舞い」には、弁解の余地がない。相手に対して弱腰だというだけではない、全世界に恥をさらしているのだ。このことが、まだ分からないのか。具体的な対抗策以前の問題として、その無様さが我々の誇りを傷付けているのだ。それこそが国益を損ねているのだ。
この内閣に対して、「名内閣」などという名を冠することは、たとえ条件附きであっても、冗談にもならない。不快の極みである。これが正論なら、前任者もさらにその前の者も、全て名宰相ということになる。長く外交のキャリアを積み重ねながら、なお「国益とは国民の誇りの総和である」ことすら理解出来ないようであれば、一言「老兵は去るべし」と申し上げるしかなかろう。