家庭教育支援条例と親守詩。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 









【解答乱麻】明星大教授・高橋史朗





発達障害者支援法は、発達障害について、「脳機能の障害であって、その症状が通常低年齢において発現するもの」と定義している。

 このような先天的器質的な脳機能不全を意味する発達障害と後天的な環境因、非常に不適切な養育や養育放棄などによるものとは明確に区別する必要がある。

 両者は表面的な特徴は似ているが、本質的に異なるものであり、筆者や金子保氏が予防、改善できると指摘しているのは後者についてである。

 現在、全国各地で親学推進議員連盟の設立、家庭教育支援条例の制定に向けて準備が進められているが、混乱をさけるため、発達障害に関する内容は除外することにした。

 平成20年の文部科学省委託調査によれば、保護者の約4割が子育てについての悩みや不安があり、子供のしつけやマナー、発達などが最大の悩み、不安となっている。

 18年に教育基本法が改正され、家庭教育が独立規定として新設された。そして、保護者に教育の第一義的責任があり、「自立心を育成し、心身の調和のとれた発達を図るよう努めるものとする」と「子供の発達の保証」が保護者の努力義務であることが明記された。

 これを受けて20年の中教審答申「教育振興基本計画について」は、今後10年間を通じて目指すべき教育の姿として、発達段階に応じて「自立の基礎」を育てることの重要性を強調した。

 「自立の基礎」とは何か。18年の党首討論で、「教育の責任はどこにあると思うか」という小沢一郎氏の質問に対して、小泉純一郎氏は「教育の責任は親にある」として、「しっかり抱いて そっと降ろして 歩かせろ」という諺(ことわざ)を引用した。

 正しくは「そっと」ではなく「下に」であるが、この諺に「自立の基礎」が明示されている。

文科省の「家庭教育支援の推進に関する検討委員会」が今年3月に出した報告書によれば、現代は「家庭教育が困難になっている社会」であり、「親としての学びや育ちを応援」し、「発達段階に応じた子どもとのかかわり方についての学習が必要」になっている。

 このような家庭教育支援の新たなニーズと教育基本法改正の趣旨を踏まえた「家庭教育支援法」「家庭教育支援条例」の制定が必要なのである。

 教育基本法第13条の学校、家庭、地域の連携協力の新たな動きとして、親の恩に感謝して子が親を思う心を詠む「親守詩(おやもりうた)」の普及委員会が設立され、全国に広がりつつある。7月7日に「親守詩埼玉大会」、8月8日に同兵庫大会が開催され、来年8月には全国大会の開催が予定されている。ちなみに埼玉県知事賞に選ばれたのは、「遠くの地一人がんばる父恋し 長男坊よ家族任せた」という親子の共同作品である。

 親守詩の原点は親心と子守歌である。親心の代表作は山上憶良(やまのうえのおくら)の「銀(しろがね)も金(くがね)も玉も何せむに勝(まさ)れる宝子にしかめやも」という万葉集の和歌であり、吉田松陰(よしだしょういん)は辞世の句で「親思ふ心にまさる親心けふの音づれ何ときくらん」と詠んだ。

 このような親子の情が日本民族の精神的伝統であり、日本の心、情緒の核心といえる。このわが国の精神的伝統を現代に蘇(よみがえ)らせるために、俳句やエッセーと併せて、上の句を子供、下の句を親が詠む「親守詩」を全国に普及したい。

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【プロフィル】高橋史朗

 たかはし・しろう 埼玉県教育委員長など歴任。明星大学教育学部教授、一般財団法人「親学推進協会」理事長