【40×40】山田吉彦
地球温暖化は、海洋社会を大きく変えつつある。夏の間だけ北極海の氷が解け船舶の航行が可能となったのだ。この航路は、北極海航路と呼ばれアジアとヨーロッパとの距離を既存のスエズ運河を回る航路の約6割に短縮した。2011年には、この航路を15隻が通航し、計70万トンの物資が運ばれた。
北極海航路の大半は、ロシアの管理海域にあり、その東方のスタート地点にはオホーツク海、そして北方領土がある。最近、ロシア国境警備庁は、北方領土海域に9隻ほどの警備船を配備し、海洋安全保障体制を強化している。また、北方領土海域は、サハリンから液化天然ガスを搬出する重要な航路でもあるのだ。
北極海航路は、海洋社会におけるロシアの影響力を増大させる半面、ロシアが航行安全を保障しなければならない海域は広大となる。海洋管理の経験が少ないロシアは、海洋国家日本に協力をもとめてくることだろう。
わが国の国会議員の間でも北極海航路に関心がもたれ、安倍晋三元首相を会長に北極圏安全保障議員連盟が結成されている。事務局長は小池百合子元防衛大臣で、民主党、公明党からも参加している。世界の物流の変化を知ることは貿易に依存するわが国には不可欠であり、また、北方領土問題にも新たな動きが生まれる可能性がある。昨今の政治は場当たり的だが、次世代を見据える動きは、本来の国会議員の責務であろう。
民間の北方領土返還運動においても変化がでている。さる7月14日、日本青年会議所は、船をチャーターし根室と北方領土との中間線付近を通航し、歯舞群島の水晶島、貝殻島に迫るツアーを行った。参加者は、これらの島々を間近に見て、あらためて北方領土問題の矛盾を感じたようだ。「奪われた島々」。歴史や国際法をないがしろにした理不尽な現実がそこにはあるのだ。また、領土問題における「実効支配」の強さを思い知らされたことだろう。しかし、現実に目をそむけず、北方領土問題を考えることは、新たな発想を生むことだろう。流れの激しい時代に対応するには、動きながら考える必要もある。
(東海大教授)