このまま防衛装備品は作れなくなるのか。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 






「防衛産業」がない日本


草莽崛起:皇国ノ興廃此ノ一戦在リ各員一層奮励努力セヨ。大日本帝国憲法復活! 




2012.06.12(火)桜林 美佐:プロフィール


草莽崛起:皇国ノ興廃此ノ一戦在リ各員一層奮励努力セヨ。大日本帝国憲法復活! 

















 防衛大臣が交代した直後の6月6日、防衛省で1年半をかけて議論を重ねてきた「防衛生産・技術基盤研究会」の最終報告書が大臣に提出された。私も委員の一員として参加してきただけに感慨深い。

 内閣改造の影響でこの日に予定通り報告書の提出と記者発表が行われるかどうか当日の朝まで分からなかったために、報道各社への連絡もままならず、今のところ新聞等でも論評には至っていないようなので、ここで少し触れてみたい。

日本の防衛装備品の基盤は極めて不安定

 そもそも、このような研究会が立ち上がった経緯は、「厳しい財政事情により防衛関係費の伸びが期待できないこと」「装備品の高精度化により、維持整備費用が購入にかかる経費を上回っていること」などから装備品を担う企業が圧迫され、2003(平成15)年以降に防衛産業から事業撤退・倒産した企業が102社にも上っている背景がある。

 そこで、これまでは「買うだけ」というスタンスであった防衛省としても、他省庁との連携の上で、この難局にいかに対峙するかを考えなければならない状況になっていたのだ。

 今回、様々に実態調査を進めていく過程で、委員の中から「なぜ、こんなにひどい状況でガマンしていたのだ」という声が上がる場面もあったほど、企業が担う負担の驚くべき実態が明らかになった。

 そうした実情がなかなか表面化してこなかったのは、この部門に携わる方々が、非常にガマン強い(あるいは麻痺している!?)ことも一因にあるかもしれないが、最大の原因は、わが国には「防衛産業」というものがないことであろう。平均すると、企業にとって自衛隊向けの売り上げは10%ほどの比率でしかない。

 他部門、つまり民需品分野が安定していれば、さして問題はなかったのだが、昨今の景気低迷で企業に余裕がなくなってきた。支えることができそうにない部門として槍玉に挙がったのが、防衛に関する仕事である。

これまで、いわば「おつきあい」でやってきた部分は、今後、容赦なくカットされる可能性がある。これは自衛隊にとって、そして日本の防衛力にとって重大な問題である。

 それにもかかわらず、その運命は企業に任されていた。このことは、経営者次第では日本の防衛装備品の芽が絶たれることもあるし、株主の意向で継続が許されないことも考えられるということだ。防衛装備品は極めて不安定な基盤の上に成り立っていると言っていい。

 翻れば、日本人は強制力がなくても儲からなくても、公共ために身を削ることができる国民性だった、と言えるのかもしれないが・・・。

 しかし、実際のところ、そうも言ってはいられなくなってきた。防衛部門はかねて企業にとっては事業性が薄く、「国を守るための仕事をしている」というイメージと、官需であるという安定性があればこそ存続していた。だが、そのわずかなメリット以上に企業全体の経営状況が厳しくなってきたことから、防衛部門は完全なる「お荷物」と化してしまっていたのだ。

 それでも今日までなんとか防衛装備品を製造できているのは、防衛部門の担当者が一度失われたら二度と取り戻せない高度な技術を死守すべく孤軍奮闘してきたからである。

 それに、1つの装備品製造には数千社の企業が関係し、中にはそこでしか作れないものを担う「オンリーワン」の町工場も多く、そうした特殊な部品製造は民需への移行が不可能でやめるにやめられなかった人たちもいる。

 プライム企業が「もうやってられない」と、防衛事業をやめるようなことになれば、これまで踏ん張ってきたベンダー企業も大打撃を受けるのだ。

ようやく目を向けられるようになった企業の実情

 ところが、これまで防衛省の立場は「防衛省は物を買うだけのところである」というものであり、工廠を持たないわが国としてもこれらに不干渉であった。物を調達し続けていればそれでもいいが、そのうちに「お金がないから買えなくなった」というわけで、これでは、いくらなんでも無責任と言わざるを得ない。

 もちろん官サイドには「そんなことではいけない」と言う人もいるのだが、防衛省と企業とは世間からの「癒着」「天下り」・・・などという謗(そし)りを避けんがためにコミュニケーションを取ることすら避ける傾向がある。そのために互いの事情を語り合う場もなくなり、思いを致す余裕もなくなっていたのだ。

 防衛省の予算に関わる部署などは床にビニールテープを張り、企業関係者の立ち入りを厳しく禁じるなど殺伐とした雰囲気になっている所もあるようだ。「それくらい厳密にするのは当然」なのかもしれないし、一時期はあったと言われるような接待ずくめなどを奨励しているわけでも決してないが、これでは意思疎通もできず、また、この光景は官と民の根本的な関係を象徴しているようにも見える。

 このように世間の目に神経質になっていた(そうせざるを得なかった)官側が、今般、企業側の実情に目を向けるようになったことは大きいと言えるだろう。

 もちろん、全ての防衛関連企業が崇高な志だけで事業を続けてきたとは言わないし、そこには低利といえども安定性が担保されていたことや、官需を担っていることで対外的な信頼を得られるなどの要因はあった。

 また、防衛省・自衛隊にはいわゆる「援護」の問題、つまり再就職先となる企業がいなくなっては困るという事情もないとは言えない。

 しかし、日本で装備品が作れない、修理もできない状態になったならば、一番困るのは自衛隊であり、そして、それは我々国民にとっても不幸な出来事に他ならないのだ。まずはこの国民の当事者意識を喚起することが最重要課題ではないかと考えている。今回の報告書が1つの大きな契機になってくれることを強く望むものだ。