他の帽子を作れなくなってしまう理由。
2012.05.29(火)桜林 美佐:プロフィール
千葉県内の住宅街を入っていくと、その会社「日本官帽制帽」はある。民家と見紛うような佇まいの建物の中に入ると、十数人の女性たちが陸上自衛官の帽子を作っていた。
日本官帽制帽の帽子作りは、元々、農閑期の仕事として始まった。昨今は中国製品などの登場によって国内の帽子産業は衰退の一途を辿っている。制服を着る職業でも国産帽を採用する所は少なくなる一方なのだ。
「元々は教員をしていたんですが・・・」。そういう同社社長は3代目。父親が急死し、後を継いだ。
かつては山形で帝國海軍の帽子を作っていたが、軍に協力していたということで故郷にいられなくなり、こちらに移ってきたのだという。
この緑色の帽子、昔から外見は変わっていないが、内側は時代とともに進化をしている。あらゆる状況下でいかに心地よくかぶれるか、今なお研究を続けているという。
糸の1本1本に至るまで微に細にわたってなされている気遣い、そんな帽子作りを先導してきた工場長は近年リタイアした。
「休んでくださいと言っても日曜に来て作業をしていたんですよ」
中学卒業から55年間の人生を帽子作りに投じた、その技術と熱意を残った職人たちが受け継いでいる。
大量発注の帽子を作ると職人の「手が荒れる」
帽子作りは20~30年経験してやっといい物ができるようになるという。
いずれの装備品もそうだが、自衛隊のものは仕様が細かく厳しい。この壁をクリアするだけでも至難の業だと言われるが、仕様書には記されていなくても欠かせない重大なポイントがあるという。それは「威厳」だ。
「この帽子は、国民に尊敬される立場の人がかぶるのですから」
同社は以前、ある有名企業から大量の発注があったが断ったのだという。理由は「仕様書が大雑把だったから」。
自衛隊のものが細か過ぎるとも言えるのだが、曰く「職人の手が荒れてしまう」とのことだった。
つまり技術力が落ちることを嫌ったのだ。一度、雑になってしまうと、その後、自衛隊向けの細かい作業に対応できないかもしれない。そのため、量産して一時的に利益を得ることよりも、技術を失うリスクを避けたのだ。
「テレビなどで外国の軍人が出てくると、内容よりも帽子ばかり見てしまうんですよ」
社長の見たところでは、やたらと大きくてパンパンに張っている帽子はだいたい縫製のまずいもので、陸自のように張っている部分と緩やかなカーブがあるものは珍しく、他国にはなかなか真似できないのだという。
その点、評価が高いのは米軍の帽子だ。社長は米軍関係者に「どうしてそんなに良くできているのか」聞いてみたことがある。
すると返ってきたのは「兵士には一番いいものを身に着けさせるのだ」という答えだった。さらに「われわれは戦う軍隊なのだ」とも付け加えられたという。
余談だが、米軍では金モールにもこだわっていて、99.9%の純金だ。現在は作る職人がいなくなり、パキスタンに技術移転して製造しているという。苦肉の策でも、何とかしてその身分に相応しい金モールを調達すべく努力している様がうかがえる。
中国製ブラックベレーを回収、廃棄した米陸軍
日本でも自衛官の帽子作りの職人は高齢化が進み、数人しか残っていない。完成直前に風邪をひいてしまい、納期を延期せざるを得なかったこともあったのだとか。
他の職人技術と同じように高齢化や担い手不足の問題があり、せっかく築いた日本の誇るべき技術をどう継承していくのかが関係者の悩みの種となっている。
国内の帽子業界全体を見ると、製造拠点を中国に移したメーカーもあれば、廃業に追い込まれた所もある。中国と提携して生き残ろうとしても、うまくいかないケースが後を絶たないという。
中国の製造拠点に1万個オーダーしたら10万個届いてしまい、「違う」と言っても「うちは従業員が1万人だから10万個からしか受け付けないんだ」と受けつけられず、結局、発注側が倒産してしまったなどというケースも聞く。
「うちは帽子屋なので帽子を作り続けます」
そうした中でも、日本官帽制帽では卸売業のようなことはせず、日本人の手によって作る帽子にこだわり続けている。それも、単にかぶるだけのものではない、特に「威厳」と「品格」が必要な帽子に。
「カッコイイ!」と子供たちに憧れられ、部下に尊敬される自衛官の帽子をとことん追求する。そうでなければ彼らがかぶる意味がないとも社長は断言する。
そう言えば、かつて米陸軍のブラックベレーが競争入札で中国製になった時、兵士から不満が噴出した。それを知った参謀総長が、知らぬ間に中国製が採用されていたことに憤慨し、その全てのベレーを回収して在庫も破棄したという逸話を思い出した。
「われわれは戦う軍隊なのだ」
その言葉に、誰も「もったいない」などということは口にできなかっただろう。軍人の誇りとはそういうものではないだろうか。
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