【主張】中国船長公訴棄却
沖縄・尖閣諸島沖で平成22年9月に起きた中国漁船衝突事件で、公務執行妨害などの罪で強制起訴された中国人船長について、那覇地裁は公訴棄却を決定した。
刑事訴訟法に規定された起訴から2カ月以内の15日までに船長に起訴状が送達されず、効力を失ったためだ。政府や検察当局の事件対応に多くの疑問を残したまま、これを幕引きとすることは許されない。
那覇検察審査会の起訴議決を経て、検察官役の指定弁護士は3月15日に強制起訴した。
那覇地裁は法務省を通じて3月18日、中国側に司法共助を求める文書を送った。しかし、中国側は今月15日になって「尖閣諸島は自国の領土であり、日本の司法手続きを受け入れることはできない」と回答してきたという。
日本側は、期限最終日の拒否回答まで中国側の対応をただ待ち続けたのか。領土を主張する回答をそのまま受け入れたのか。何の外交努力も尽くさなかったのか。
13日に北京で温家宝首相と会談した野田佳彦首相は、船長の身柄引き渡しや起訴状送達について、何も求めなかったのか。国家の主権にかかわる問題である。政府はきちんと説明すべきだ。
検察審査会は、検察官が独占する起訴権限の行使に民意を反映させて不当な不起訴処分を抑制するためにある。
船長の犯意が明白なこの事件で、那覇検審の強制議決は、「今後の日中関係を考慮した」と説明して船長を釈放・帰国させた那覇地検や「地検独自の判断」と繰り返した政府の関与に向けられたものといえる。
誰の目にも不自然と映った船長に対する不起訴(起訴猶予)処分について、その背景も含め、改めて検証する必要がある。
政府はこの事件で、海保が撮影した衝突時の録画映像の公開を、「刑事訴訟法上の証拠」であることを理由に拒み続けてきた。
海上保安官(当時)が流出させた映像を見れば、中国漁船が故意に海保の巡視船に体当たりしたことは明らかだった。
公訴棄却で裁判が開かれないなら、録画映像はすでに「証拠」ではない。拒む理由を失った以上、政府は正式な形で録画映像を全面公開すべきだ。
うやむやのまま事件を忘れてしまうことが、一番悪い。