【単刀直言】自民・伊吹文明元幹事長
私が自民党幹事長だった福田康夫政権時代に、民主党代表だった小沢一郎さんが大連立を仕掛けた際の言葉は今も鮮明に覚えていますよ。「民主党には政権を担う能力と資質が欠けている。内閣に入って勉強しておかないといけない」と言っていたんだ。大連立は民主党内の反対で立ち消えになったけど、与党・民主党を見ると、まさに小沢さんの言った通りだ。
小沢さんが消費税増税はマニフェスト(政権公約)違反だと指摘しているのは、選挙時の公約や民主党幹部の言動からすれば、正しい。前回衆院選では消費税引き上げに民主党候補者は、選挙公報やメディアへの回答を見る限り、全員反対していたんだからね。
野田佳彦首相が社会保障と税の一体改革関連法案の今国会での成立に「政治生命を懸ける」と言っているわけでしょ。従来の理解からいえば、成立しない場合は内閣総辞職か衆院解散・総選挙するかということだよね。だから、関連法案の審議はただ政策を論じるだけではなく、今後の政局を大きく左右するわけです。
そのような重責は荷が重い、と(社会保障と税の一体改革に関する衆院特別委員会の)筆頭理事就任の要請を何度も断ったけど、谷垣禎一総裁が「すべてご一任します」と言われるので、党員の義務・宿命と思い引き受けたんだ。国会運営に精通した逢沢一郎元国対委員長に理事を、野田毅税制調査会長や町村信孝元官房長官ら政策プラス政治の分かる方々に委員をお願いしたんだよ。
「消費税増税は必要」という問題意識は、自民党こそが本家本元との思いもあるからね。政治生命を懸ける野田首相に敬意を払っての布陣なんです。
民主党は野田首相を本当に支える気があるのなら、藤井裕久税調会長や前原誠司政調会長も委員に入り、本気度を見せるべきだよ。内閣が法案を出せば、一糸乱れず成立のために努力するというのが本来の与党、議院内閣制の姿なんだ。そのイロハができているのかが一番の問題なんですよ。
消費税だけではなく、年金関連や子育て関連の法案も審議するんだから、かなりの審議時間が必要になるだろうね。衆院でも100時間では足りない。何を基準に前回衆院選で有権者が投票されたのかを思うと、「協議しましょう」「わかりました」とはいかないでしょ。野党との協議は本来、幹事長や政調会長の務めだけど、なぜか岡田克也副総理がやっている。岡田さんは自民党側に「自民党が賛成してくれたら、民主党内はまとまる」と言っているようだけど、これは逆だ。「党内を必死にまとめるので、一緒に協議してください」が筋でしょ。「党を割りたくない。選挙で負けるのは嫌だ」と引き延ばしの姿勢の輿石東幹事長ラインも、野田首相の抵抗勢力に見えて仕方がないね。
もっとも、民主党を甘やかした自民党にも責任がある。民主党が政権を獲得したのは、自民党が自信が過剰、うぬぼれになり、国民目線で適応できなくなって嫌われたから。その後、野党になっても与党ぼけで、野党ぼけが抜けない民主党を手助けしているのが政治の活力を失わせている。
消費税増税のための論理構成も違うんですよ。自民党は額に汗し、税金や保険料を納める人の立場で考え、社会保障もさらに合理化するから消費税を上げさせてほしいという姿勢です。民主党はアメをあげますからムチも受け取ってくださいという社会主義的バラマキの立場でしょ。この調整が成否のカギの一つなんじゃないかな。
消費税法案の中身も問題点があるね。逆進性の解消策として民主党が検討している「給付付き税額控除」は申告しなかったり、過少に申告した人が過大に給付を受け取る可能性があり、二重の意味で努力した人がばかを見る。複数税率は将来はともかく、10%まで上げるとしている今回で導入するかどうかは課題になる。執行部とも相談しながら進めていくけど、民主党は執行部と内閣が一枚岩なのか党内統治の状況が分からない。党利、私利を離れ、国民のため「政治生命を懸けて」もらいたいね。