【外交ごっこのツケ】民主党政権の禍根(下)
ルール無視 個人プレーで国益消失
「民主党は中国共産党の職員に対し、もともとは税金のお金を渡している。とんでもない外交だ!」
4月4日の参院予算委員会。自民党の西田昌司氏は民主党の対中外交を厳しく批判した。
西田氏が指摘したのは、中国共産党の対外政治工作にもかかわる中央対外連絡部の職員が、民主党の留学支援で一橋大に留学していた問題だ。政治資金収支報告書によると、民主党は平成16年1月からの9カ月間で計142万2600円をこの職員に支出している。
野田佳彦首相は事実関係を認めた上で目的についてこう答弁した。
「日中の友好促進にとってお互いの理解を深めるには国対国、民間対民間あるいは政党対政党、さまざまなチャンネルを通じた交流は必要だ」
だが、外務省の中国担当経験者は「こんな話聞いたことがない。ちょっと考えられない」と語る。なぜ、わざわざ国民の税金である政党助成金を含む党費で、中共職員を接遇する必要があるのか。何の成果があるというのか。
小沢氏が“朝貢”
民主党外交の特徴は、外国勢力に対する警戒心の薄さにある。特に中国に対しては「外務省を通さず、それぞれの議員が直接、在日中国大使館などと交渉したがり収拾がつかない」(日中外交筋)という。
野田首相の制止を無視してイラン訪問を強行した鳩山由紀夫元首相(党外交担当最高顧問)だけが例外なのではない。政府と党、各議員で、それぞれの思惑や利害がらみのバラバラな対応となりがちだ。
民主党政権発足直後の21年12月、当時の小沢一郎幹事長は党所属国会議員142人を伴って中国を訪問した。秘書や後援会関係者を合わせると600人規模の「史上最大の海外訪問団」(外務省関係者)で、「朝貢外交」ともいわれた。
そしてその直後に来日した中国の習近平国家副主席が、会見希望日の1カ月前までに申請する「1カ月ルール」を破って天皇陛下と「特例会見」を行った。
外務省も宮内庁も反対したが、小沢氏がいったんは会見断念に傾いた鳩山首相に電話をかけ「いったい何をやっているんだ!」とごり押ししたのだ。
特例会見実現で習副主席はライバルに差をつけ、胡錦濤国家主席の後継者は自分であると内外に印象づけることに成功した。同時に中国は民主党政権について、圧力を加えれば国内ルールを破ってでも従ってくると学習したのだろう。
仙谷氏は密使派遣
翌22年の9月には、沖縄・尖閣諸島沖で中国漁船が海上保安庁の巡視船に体当たりする事件が発生した。この時の菅直人首相も中国側の強硬姿勢に「ベタ折れ」(日中外交筋)し、勾留期限を待たずに超法規的に船長を釈放させた。中国の思惑通りに操られた揚げ句、こう那覇地検に責任をなすりつけもした。
「検察当局が事件の性質などを総合的に考慮し、国内法に基づいて粛々と判断した結果だ」
仙谷由人官房長官はやはり正規の外交ルートを通さず民主党の細野豪志幹事長代理を密使として中国に派遣し、関係修復を図った。こうした外交記録が残らない議員外交では、中国側にどんな言質をとられているか分からない。何らかの密約が交わされても、国民には検証不能という危険性がある。
さらに見逃せないのは、「メドベージェフ大統領が訪問中の中国から北方領土に向かう計画だ」(ロシア・サハリンの地元通信社)と報じられたのが、中国人船長釈放のわずか2日後だったことだ。ロシアは日本の対中屈服を分析し、好機ととらえたのではないか。
そして同年11月、メドベージェフ大統領はソ連時代も含むロシアの国家元首として初めて、北方領土・国後島を訪問した。大統領は9月の訪中の際には、中国側と先の大戦での対日戦で中ソ両国が共闘したとの歴史認識を確認している。中国側と示し合わせての北方領土訪問だった可能性もある。
ところが、民主党に中国漁船衝突事件での対応の誤りがこうした事態を招いていることへの反省はない。仙谷氏は今年1月の講演でこう言い放った。
「私はいまだにあの時にやったことはすべて正しかったと思っている」
鳩山氏は親書持参
野田政権になっても、民主党外交は揺るぎなく稚拙だ。複数の党幹部は昨年9月の政権発足時、韓国情勢についてこう楽観していた。
「歴代大統領は任期終盤になると日本批判で求心力を高めようとしてきたが、李明博さんは全然違う」
李大統領に限って歴史認識カードをもてあそばないという甘い見方だったが、昨年12月の日韓首脳会談で大統領は会談の大部分を慰安婦問題に割き「優先的解決」を要求した。この間、韓国による竹島の実効支配も着々と進められた。
「政権交代後の2年7カ月で、日本の領土外交は本当に後退してしまった…」
外務省幹部がこう振り返る通り、同盟国・米国を軽視する一方、他国には譲歩一辺倒の民主党政権は「外交ごっこ」を繰り広げ、事態はさらに混乱している。
今年3月には輿石東幹事長と、鳩山氏が同時期に別々に中国を訪問するというちぐはぐさを見せつけた。2人は同じ23日に個別に習副主席と会談したのだ。
しかもこの際、鳩山氏は胡主席宛ての小沢氏の親書を持参した。小沢氏は野田首相の消費税増税路線に批判を強めていただけに、あたかも党が分裂し、それぞれの正統性を宗主国に認めてもらうため奔走しているかのようだった。
常軌を逸した姿には、自民党の親中派と目される議員も眉をひそめる。日中協会会長の野田毅元自治相は嘆息する。
「これでは中国側に対日カードを何枚も持たせて優位に立たせてしまう…」
東京都の石原慎太郎知事が尖閣諸島購入を表明しても野田政権は静観を決め込み、反転攻勢のための確たる方針は示せない。外交音痴は病膏肓(こうこう)に入り、もはや手の施しようがない。
(阿比留瑠比、杉本康士)