【石平のChina Watch】
不動産バブルの末期症状 大幅な値下げ必至。
4月に入ってから、中国の不動産市場の動向に関するいくつか重要な情報が上がってきた。
1つは、中国指数研究院が2日に発表した不動産価格の下落に関する最新情報である。それによると、今年3月の中国100都市の不動産平均価格は先月比で0・3%程度下落し、2011年9月以来連続7カ月も下落しているという。
100都市の不動産平均価格が先月比でわずか0・3%しか落ちていないのはむしろ意外であるが、今後の行方を占う上では、価格が「連続7カ月下落してきている」という事実の方が重みがあるであろう。
不動産市場の下落傾向に関する別の統計数字も出ている。中国国家統計局が18日に発表した3月の新築住宅価格は、主要70都市のうち38都市で前年同月の水準を下回ったのである。前年割れした都市は2月より11都市増え、全体の5割超に達しており、価格の下落基調がいっそう強まっているとみられる。
価格の下落よりもさらに深刻なのは不動産市場そのものの冷え込みである。価格が連続して落ちているのに不動産は依然、売れないのだ。たとえば首都北京の場合、北京市房地産業(不動産業)協会が9日に発表したところによると、今年第1四半期の北京市内の「新築商品房(新規分譲物件)」の成約件数は前年同期比で14・2%も減少し、07年以来の最低水準になったという。
もちろん北京だけでなく、「売れない」のは全国の不動産市場の共通した傾向であり、結果的には在庫ばかりが増えてくることになる。最近、人民日報の掲載記事に出た1つの数字は実に驚くべきものである。同紙が13日付記事で披露したところによると、現在、全国の開発業者が抱えている不動産物件の在庫は時価総額にしてはなんと、5兆元(約64兆円)程度に達しているという。
11年の中国のGDP(国内総生産)は約47兆元であるから、5兆元というのは中国の現在のGDP規模の1割以上に相当するものだ。「不動産在庫がGDPの1割以上」とは、まさに不動産バブルの末期症状ともいうべき深刻な状況であるが、それほどの在庫を消化するのには大幅な値下げ以外に方法がないのは自明のことであろう。
上述の人民日報記事も12年における不動産市場の「降価潮」(値下げラッシュ)発生の可能性に言及しているように、実は今、年内の不動産価格の大幅な下落はもはや避けられないというのが国内の専門家たちの共通した認識となりつつある。
国内の専門家だけでなく、かつてのアメリカバブル崩壊を予言した米ニューヨーク大学のN・ルービニ教授も最近、すでに下落中の中国の不動産価格は今後さらにひどく落ちていくだろうと予測している。
現に、すさまじいほどの価格下落に襲われた都市もある。北京青年報が2日付で報じたところによれば、北京の衛星都市として有名な通州市では、不動産の平均価格が昨年夏の最盛期の1平方メートル当たり3万元(約39万円)から現在は1万3千元に下落したという。まさに雪崩式の暴落である。
衛星都市の価格暴落はいずれ中心都市に波及してくるから、北京の不動産市場も実に危ない。そして3月には、上海と広州の不動産価格が前月比でそれぞれ10%程度下落したとの情報もある。「降価潮」が全国の大都会に押し寄せてくるのは時間の問題であろう。
本欄がかねて予言している中国の不動産バブルの崩壊は、ただ今進行している最中なのである。
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【プロフィル】石平
せき・へい 1962年中国四川省生まれ。北京大学哲学部卒。88年来日し、神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。民間研究機関を経て、評論活動に入る。『謀略家たちの中国』など著書多数。平成19年、日本国籍を取得。