【環球異見】
北朝鮮が国際社会を揺さぶり続けている。長距離弾道ミサイル発射に続き、米朝合意の破棄を表明、新たな挑発行為も示唆している。北朝鮮と関係の深い中国のメディアは、発射失敗を認めた北指導部に「微妙な変化が表れている」と期待を示し、直接的な批判を避けているが、北への対応策について米韓各紙には「対話路線の凍結」「継続」と相反する意見が紹介された。
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▼中央日報(韓国)
■対話局面への注視を
北朝鮮が長距離弾道ミサイルの発射に失敗した翌日の韓国メディアは、核実験を含めた新たな挑発への懸念と警戒を一斉に伝えた。こうした論調の一方、米朝関係が対話局面へ転換するタイミングを的確に捉え、危機回避に努めるべきだとする見解も掲載された。
東亜日報は14日付の社説で「ミサイル発射の失敗で金正恩氏の体面は大きく傷ついた」と指摘。「今回の失敗を挽回しようと、金正恩氏が軍事挑発や核実験といった手段に出るならば、北朝鮮はさらに深い溝に陥る」と警告した。
ミサイル発射の失敗が北朝鮮の権力層に与える影響について、中央日報は14日付の社説で「指導部内に葛藤が生じる可能性が高まった」と分析した。
社説はミサイルの発射を「金正恩氏への権力の3代世襲を完成させる党代表者会と最高人民会議のための『祝砲』として企画された」とし、これが失敗したことで「住民に対する指導部の権威も(金正恩氏の権威と)同時に失墜した」と指摘。
今後の北朝鮮の動向を「軍部を中心とした強硬派が名誉回復のため、さらに強硬策に走り、若い金正恩氏は彼らを押さえ込むよりもむしろ便乗するはずだ」と予測。「こうした可能性を警戒し、それに備えなければならない」と主張した。
その一方で社説は、北朝鮮の金桂寛第1外務次官が先月末、米側にミサイル発射後の米朝交渉再開を求めていたとされる、として「中長期的には(米朝関係が)対話局面に転換する可能性も完全には排除できない」との見通しを示した。
また、韓国政府などに対しては、朝鮮半島が「極端に危機的な状況に向かうことを防ぐための努力をしなければならない」と、状況変化への注視を求めている。(ソウル 加藤達也)
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▼ニューヨーク・タイムズ(米国)
■安易な譲歩は北の増長招く
米タフツ大フレッチャー法律外交大学院のイ・ソンユン准教授は、14日付のニューヨーク・タイムズへの寄稿で、米国はミサイル発射の失敗でも手綱を緩めることなく「厳しい処罰」を科さなければならないと主張。過去のような譲歩を繰り返せば挑発行為のエスカレートを招き、北の核兵器をめぐる重大な脅威に直面するだろうと警告した。
イ氏は金正恩第1書記が過去と同様の「挑発と親和」の繰り返しを追求していると指摘し、新体制でも北の外交姿勢に変化はないとの見方を示す。
米朝合意から約2週間でミサイル発射を予告した政策の変遷には、軍部と外交当局が主導権争いを繰り広げているとの分析もある。
だが、イ氏は最高指導者の下した米朝合意の決定を軍部の不満分子が覆したとする主張を「ばかげている」と切り捨て、あくまでも米朝合意とミサイル発射は北の揺さぶり戦略の一環との見方を崩さない。
その上で、北朝鮮は特殊部隊による1968年の韓国大統領官邸襲撃未遂事件以降、度重なる不法行為を繰り返しても「意味ある罰則を受けず、むしろ報償を得てきた」と述べ、国際社会の弱腰が北朝鮮の増長を許してきたと指摘する。
負の連鎖を断ち切るためにも「米国の対応はこれまで通りの修辞的な非難と弱々しい懲罰、損害拡大を制御するための譲歩であってはならない」と述べ、長期的な視野で金正恩体制に圧力をかけるよう促す。手始めとなるのは政権高官を狙い打ちにした経済制裁と対話路線の凍結だ。
イ氏は北朝鮮の挑発行為を「短時間で食い止めるのは難しい」と認めながらも、安易な譲歩は北の増長を許し、国際社会は「破滅的な戦争で終わる重大な核の危機」に直面すると警鐘を鳴らした。(ワシントン 犬塚陽介)
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▼新京報(中国)
■新体制の開放路線に期待
後ろ盾である“血盟国”の顔にも平気で泥を塗る。そんな北朝鮮の動向は、中国から見ても謎だらけだ。14日付の北京紙、新京報は、北朝鮮の長距離弾道ミサイル発射に絡む「6つの謎」について考察した。
失敗の原因や技術開発の遅れ、自爆のウワサ、北朝鮮の内政への影響、3回目の核実験の可能性-。中でも、もっとも大きな謎として着目しているのが、これまで白も黒と言い張ってきた北朝鮮が、自ら失敗を認めたことだ。
1998年と2009年のミサイル発射と違い、北朝鮮は今回、国際機関に破片の落下地点を報告するなど、国際慣例に従った。同紙は「北朝鮮は外国メディアを招待するなど、国際社会に対する透明度を上げた。これは金正恩が金正日と違って開放を進めることを物語っており、失敗を認めたことも、それを示している」と受け止めた。
失敗は技術的問題によるものであって、北朝鮮国内での金正恩第1書記に対する見方に影響はないという。金第1書記が失敗を認めるよう指示したのは権力を掌握した自信の証し。北朝鮮指導部の問題処理の仕方に「微妙な変化」が表れていると期待を込めている。
また、中国のロケット専門家は、今回発射されたミサイルは、中国が1970年代に衛星打ち上げに使ったロケットと大差ないと分析。「当時の中国のロケットよりも遅れている。正確にいうと、(北朝鮮の技術は)中国より40年遅れている」と指摘。優越感に浸っているのが、いかにも中国らしい。
もっとも、同紙が肯定的に見ていた“変化”は見込み違いではなかろうか。北朝鮮は米朝合意を17日に破棄。同紙も「日米が制裁を強化すれば、可能性は排除できない」としていた3回目の核実験が、現実味を帯びてきている。(北京 川越一)