【主張】原発と橋下市長
大阪市の橋下徹市長には、この夏予想される関西圏の電力不足の解消に課された責任を果たす覚悟があるのだろうか。
関西電力大飯原発3、4号機の再稼働に関する、さまざまな言動を見聞きしての印象だ。橋下氏は、野田佳彦政権の再稼働方針を激しく批判し、「倒閣をめざす」とさえ公言している。
しかし大阪市長として、まず果たさねばならないのは市民や市内にある企業、工場などに電力不足という不安を与えないよう努力することではないか。
関西圏における今夏の電力需給は厳しい綱渡りが避けられない。政府は原発再稼働なしに一昨年のような猛暑に見舞われた場合、約18%の電力が不足するとみている。橋下氏は「産業に影響を及ぼしてはいけないのは当然だが、生活の利便性は、ある程度我慢してもいいんじゃないか」とし、夏場の冷房抑制などを説くが、産業界では不安が尽きない。
関西経済連合会の松下正幸副会長は「昨年並みの節電でも困る」とくぎをさす。下妻博住友金属工業会長も「可能な限り早い時点での再稼働が必要」と指摘する。
こうした悲鳴のような声に、橋下氏はどう応えるのか。
橋下氏らは、大飯原発の再稼働に関して、8項目からなる「提言」も出している。原発から100キロ圏内にある府県との安全協定締結や、使用済み核燃料の最終処理体制の確立など、国や関電に高いハードルを課す内容だ。
橋下氏は週明けにも、松井一郎大阪府知事とともに政府に説明するという。個々の項目についての判断は難しいが、これが条件にされるなら、再稼働は、かなり遠のいてしまうだろう。
そもそも、関電管内は他の電力会社に比べ、原発利用比率が約50%と高い。安全確保を条件に、原発を稼働させながら将来の最適な電源構成を考えてゆくやり方が、現実的ではなかろうか。
橋下氏が代表を務める「大阪維新の会」は国政進出を目標に、次の衆院選で候補を立てる。その場合、原発再稼働の問題も争点の一つに加えると宣言している。
今回の提言が、そうした政治的パフォーマンスの一環だとすれば、やはり問題だ。橋下氏は「大阪再生」を約束した。そのためにも、エネルギーの安定供給と確保に責任を果たしてほしい。