地球の自転速度は少しずつ遅くなっているそうだ。今は5万年に1秒程度である。10億年後には、1日が26時間ほどになる計算もあるのだという。物理学者、二間瀬敏史氏の『どうして時間は「流れる」のか』によれば、それは「潮の満ち引き」のためと考えられている。
▼満ち引きで起きる海水の運動と固体としての地球の運動に摩擦が生じ、自転にブレーキがかかるのだ。恐るべき「海水の力」である。ちょうど1年前の今日、日本人いや世界中の人がその魔力をまざまざと見せつけられた。あの大津波である。
▼1年後の今も、被災地を訪れる人は、その大きさを示す痕跡に息をのむ。宮城県気仙沼市の陸地に打ち上げられた大型漁船であり、石巻市の市中に転がる水産加工会社の巨大なタンクである。南三陸町の3階建て警察官舎の屋上には車が取り残されたままだ。
▼当時のままの姿をさらしているのは、撤去に時間がかかるせいでもある。だが大津波の教訓を後世に伝えるため保存すべきだ、との意見があるのも理由のひとつだ。気仙沼の大型船の前では県外からきた人々がカメラに収めたり、手を合わせたりしているという。
▼一方で「見れば恐怖がよみがえるだけだ」と、早期撤去を求める地元の声もある。石巻のタンクは会社が自費で工場に戻すそうだ。その気持ちは痛いほどわかる。だが「天災は忘れたころにやってくる」というのも、何度も味わわされた冷徹な事実だ。
▼やがて育ってくる津波を知らない世代のために、いくつかは残してほしい気がする。平成7年の阪神淡路大震災では、淡路島に巨大地震ゆえの大きな地割れが生じた。今はその上を建物で覆って保存し、備えを訴え続けている。