【主張】大震災1年 今も続く当事者意識の欠落
1万9千人を超える死者・行方不明者を出した東日本大震災は、11日で1年を迎える。大津波だけでなく、日本で初めての深刻な原子力発電所の事故も引き起こした。未曽有の被害に被災地の東北だけでなく、国民すべてが大きな影響を受けた。
日本という国家は、この非常事態に期待される役割を果たすことができたのだろうか。残念ながら「ノー」と答えるしかない。
混乱の中から、被災地は懸命に立ち上がろうとしたが、国家としての支援は十分なものではなかった。1年を総括し、その最大の原因を挙げるとすれば、「誤った政治主導と真のリーダーシップの欠如」といえるだろう。
首相は号令をかけよ
被災地を歩くと、この1年で市街地から、がれきはほとんど消えた。震災1年を前に被災地を調査した国連環境計画(UNEP)から「がれきの迅速な処理は称賛に値する」と評価されたほどだ。
しかし、市街地を一歩出れば、一転して、うずたかく積まれた、がれきの山に出くわす。高さは20メートルに達するところもある。広域処理の不調が、がれきを仮置き場にとどめているためだ。宮城など被災3県で推計される2250万トンのうち、最終処分まで終了したのは6%に満たない。
がれきの受け入れには、神奈川県のように一部住民の強い反対もある。細野豪志環境相は「日本社会の強さ、優しさが試される」と語るが、傍観者的に過ぎる。石原慎太郎東京都知事の指摘のように、一刻も早く「総司令官の首相が強い号令をかける」べきだ。
被災地復興の司令塔となる復興庁は先月10日、ようやく発足した。17年前の阪神淡路大震災では、1年でほとんどのインフラや高速道路、鉄道が復旧し、百貨店なども再開された。被災地の広さなどを差し引いても、今回の国の対応の遅れを象徴している。
被災地への企業誘致の起爆剤として期待されているのは、規制緩和や税減免などの特例を認める復興特区である。しかし、政府の態勢づくりが遅れ、認定は2日現在、宮城や岩手など4件にとどまっている。
企業再建の遅れは雇用にも響く。政府は被災者への失業手当の給付を延長したが、それも今年1月から切れ始めた。厚生労働省によると、2月17日までに給付が切れた3500人余りのうち、7割以上が再就職できていない。民間の人材紹介会社を活用するなど、官民挙げた支援が欠かせない。
東京電力福島第1原発の事故対応は、今も文字通りの苦しい闘いが続く。
事故から9カ月後の昨年12月、野田佳彦首相は「原子炉が冷温停止状態に達した」として、事故の収束に向けた工程表第2ステップの完了を宣言した。押さえ込みに成功し、測定される放射線量は大幅に減った。
非常事態規定を急げ
しかし、半径20キロの警戒区域を中心とした約16万人もの避難住民の帰宅や、原子炉の廃炉作業など課題は山積している。
除染に伴う汚染土壌などの中間貯蔵施設建設問題も、できるだけ早期に決着させるべきだ。政府は福島県双葉郡内の自治体首長や住民にその必要性を訴え、理解を求める必要がある。
先月末、政府の混乱と機能不全を批判した報告書をまとめた福島原発事故独立検証委員会(民間事故調)の委員の一人は「国の当事者意識の欠落こそ、今回の事故を防げず、被害を最小限に食い止めることができなかった大きな原因のひとつ」と指摘している。
政府の対応という点では今回、現行憲法の非常事態規定の不備が改めて表面化した。菅直人前首相が安全保障会議や中央防災会議などの既存の仕組みすら活用しなかった問題点も指摘されている。
災害対策基本法が定める「災害緊急事態」の布告も見送った。国民の権利を制限する面もあるが、生活必需品の配給や物価統制、債務の支払い延期など被災者を保護するための重要な措置だ。
現在、中央防災会議の専門調査会が災害対策法制の見直しを検討している。緊急事態の布告発令の弾力化も主要な論点である。
国民の生命・財産を守れない法体系の放置は許されない。災害法制見直しは、憲法への非常事態条項盛り込みとともに、政治家が取り組むべき国家的課題だ。