普天間の重要性。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 










【正論】平和安全保障研究所理事長・西原正





2月8日の日米合意で、普天間飛行場の米海兵隊4700人がグアムに移転されることになった。これは、普天間の辺野古への移設とパッケージになっていた海兵隊8000人のグアム移転取り決めを大幅に修正するものである。

 ≪固定化は当然の成り行きだ≫

 これに対する沖縄側および大方のマスコミの反応は、この合意によって辺野古への移設は断念され、普天間飛行場が固定化されるのではないかという懸念である。野田佳彦首相は27日に那覇で、仲井真弘多知事に対して辺野古移設を懇請した。しかし実際のところ、辺野古への移設が無理ならば、普天間飛行場の固定化は当然の成り行きではないだろうか。

 むしろ、中国の軍事力の増強によって、今や沖縄をめぐる安全保障環境が悪化しつつあることを考えるならば、政府はこの事実を沖縄県民に示して普天間飛行場の重要性を説得すべきではないか。

 中国の海軍はここ数年、何度か宮古海峡を通って複数の駆逐艦などを西太平洋に進出させ、沖ノ鳥島付近にまで航行させており、時には海軍演習をさせている。時には艦艇から飛び立ったヘリコプターが海上自衛隊の護衛艦に異常接近をしたこともある。さらに、日本領空に接近する中国機への空自スクランブル(緊急発進)の回数は、2010年度が96回であったが、11年度は12月までにすでに143回になったと報じられている。尖閣諸島周辺が目立つという。さらに1月末の人民日報は、尖閣諸島は中国の「核心的利益」に入ると表明した。

尖閣諸島はいうまでもなく沖縄県の一部である。仲井真知事をはじめ責任ある沖縄の政治家は、沖縄の安全が脅かされる可能性が増大していることを認識し、沖縄の防衛における普天間飛行場の重要性を再評価すべきなのである。少なくとも、米国は普天間飛行場を県民の負担軽減問題と併せて南西島嶼(とうしょ)地域の安全という観点から見直していると、筆者は考える。

 ≪米新国防戦略の主眼は中国≫

 1月5日にパネッタ米国防長官は『米国のグローバルな指導力の維持-21世紀防衛への優先順位』と題する指針を公表した。昨年秋にオバマ大統領やクリントン国務長官などが、米国のアジア重視を説いていたが、それに沿った国防戦略の発表であった。

 そこでは、今や中国の軍事力増大とイランの核の脅威を最も注視している。そして主眼は中国の経済・軍事力の増大を牽制(けんせい)するために、西太平洋から東アジア、南アジアへ、そしてインド洋に延びる円弧において米国の勢力を「再均衡」させることにある。米国は、中国が接近阻止・領域拒否(A2・AD)能力を持ち始めていることに注目し、これを制する抑止・撃破能力を持つことを米軍の一大任務にしている。

 米国にとっても、日本にとっても、中国の東シナ海および西太平洋における軍事進出を牽制・抑止する効果的な接近拒否戦略は、南西諸島の防衛を強化しておくことである。とすれば、日米両国は南西諸島の中核である沖縄本島の防衛を強固にすべきである。米海兵隊を沖縄本島から県外に追い出すことになれば、中国の思うつぼではないか。
≪日本の安全は沖縄の安全から≫

 米国は、中国が、電子サイバー戦、弾道および巡航ミサイル、高い防空性能、機雷、潜水艦などの非対称戦能力によって、米国の軍事作戦を複雑なものにさせようとしていると見る。そのためにも、米国は兵力を分散して、ハワイ、グアム、フィリピン、オーストラリア(ダーウィン)などに配置して中国軍の動きを多方面から牽制・抑止できることを考えている。米国はここ数年、フィリピンとの防衛協力関係を強化しており、海兵隊を駐留させる予定である。またオーストラリアに2500人の海兵隊を配備することで、米豪インドネシアおよび米豪シンガポールの軍事協力関係が可能になる。同盟国および友好国との連携を重視することで、米国は国防費の大幅削減を断行しようとしている。

 しかし、中東や南アジアの情勢が悪化すれば、米国は再びそれに巻き込まれるかもしれない。現在米軍がイラクやアフガニスタンから撤退することで、「力の空白」を生みだしている。また、イスラエルがイランの核開発疑惑施設を攻撃すれば、米国がイスラエルの支援をせざるを得なくなる。こうして国防費がさらに必要になれば、西太平洋・東アジア地域の米軍の存在に影響を与えるかもしれない。このことは、任務と経費の面で同盟国への期待がそれだけ高まることを意味する。

 日本はこれに応え、日本周辺、特に沖縄本島を中心にした南西諸島の西側に接近する中国の海空軍に対し、防御的なA2・AD作戦を効果的に展開できる能力を持つ必要がある。そのためには、米軍および自衛隊の基地の抗堪化、つまり敵の攻撃に堪える能力の強化を進めるべきである。長期的には、普天間飛行場などを米軍と自衛隊が共用して南西諸島の防衛に当たることを考えるべきである。

                                 (にしはら まさし)